少し前に「最初のご主人が病気らしい」という知らせを受け、悩みながらも会いに行ったネビィオちゃん。果たしてどんな結末が待っていたのでしょうか?
「ねえねえ、今日オルフェアのサーカスの公演を見に行かない?」
僕が庭でかき氷を食べていると、ネビィオちゃんが訪ねてきました。
「そういえば【夏の公演】が今日の3時からだったね。滅多にない機会だし行ってみようか」
少し前にわが家にも投函された公演のチラシの事を思い出しながら、僕は身支度を始めました。財布とハンカチと、あと何か必要な物あったっけ?
「そういえば、前のご主人とは結局どうなったの?」
あの後ウチには戻ってこなかったじゃない?と言うと、ネビィオちゃんはちょっと恥ずかしそうにうつむきました。
「うん。また一緒に暮らすことで話が落ち着いたの。やっていけるかどうかは、まだ分からないんだけど」
「そっか~。まあ、一度離れてしまったわけだしね。やっぱり不安はまだあるよね?」
「うん。でも、前みたいに同じベッドで一緒に寝ているし、寝る時もいつもギューってしてくれてるから。そこは昔と変わらないなって感じ」
「今日は一緒じゃないの?」
せっかく仲直りしたんだから、前のご主人も来れば良いのに。それでみんなでサーカスを見に行こうよ?
しかし僕の提案に、ネビィオちゃんは首を横に振りました。
「今日は【りはびり】があるから行けないって。お金は出してあげるから楽しんでおいでだって」
ちょっと早い時間に入場し、ナブレット団長と挨拶をしたりしているうちに公演が始まりました。
「レッディーース、エーーンドジェントルメーン!いよいよ開幕だぜぇい!」
いや~、みんな本当に器用でパワフル。空中ブランコにジャグリングに・・・・見ていて飽きないね。小さい体ですごくがんばってるなあ、と思わず時間が経つのを忘れてしまいました。食い入るように見ていたのですが、あれ?ネビィオちゃんは何だか気分が落ち着かないみたい。「見ていて危なっかしい」とでも思っているのかな?
「行って良かったね。すっごく楽しかった!」
「うんうん!みんなスゴかったわよね」
そんな話をしながらも、帰宅する頃にはもう汗でドロドロ。
「せっかくだし、お風呂入っていきなよ」
と、僕が勧めるものの、なぜか浮かない顔をしているネビィオちゃん。
「どうかしたの?あ、僕が見ている前で入るのが恥ずかしいとか?」
やっぱり女の子だし、しょうがないな~と思いながら席を外そうとすると、
「・・・・お風呂は入らなくていいわよ。このまま帰るから」
何だか落ち着かない雰囲気。
「あははっ!コイツ子どもの頃からシャンプーが苦手だったんですよ。ネコみたいで面白いでしょ?」
前のご主人の元まで送り届けて今日の出来事を話すと、その人は大笑いしながら話してくれました。
「も~~、そんな昔の話なんかしないでよ。恥ずかしいでしょっ!」
ネビィオちゃんは何だかきまり悪そうにしています。
「そういえば、お加減はいかがですか?少し前に【病気だから会いたがっている】って伺いましたけど」
僕が気を取り直して尋ねると、
「はい、おかげで快方に向かってきています。やっぱりコイツが帰ってきてくれたおかげで、気持ちが前向きになったみたいで」
と、ネビィオちゃんの頭を撫でながらじっと僕の目を見つめ、
「本当に、ありがとうございます」
なんと、頭を下げられてしまいました。特に何かしたわけじゃないのに・・・と、何だか恐縮した気分になりました。
「最近ね、あの日の夢を見るの」
僕が帰ろうとすると、ネビィオちゃんがおずおずとした様子で声をかけてきました。
「あの日って?」
「元気だった時のマスターのこととか、倒れた日のこととか。いつもみたいに帰ってきて、『今日の晩ご飯どうしようか?』って話している途中で急におかしくなって・・・・この部屋で倒れたの」
慌てて近所の人を呼びに行ったんだけど、助けが来るまでの間すごく怖かった。生きた心地がしなかった。一応助かりはしたけど、もっと早く助けを呼んでいられたら、前みたいに元気だったのかな?なんて思っちゃって。
「だから今はなんだか、離れるのが怖くなってきてる。アタシがいない間にまた何かあったら?なんて考えてしまうの」
「それでサーカスの時も何だか落ち着かなかったんだね?」
「うん。本当に大丈夫かな?何もないよね?って途中で何回か思っちゃって。あんな人でも・・・アタシの親みたいなものだから」
「たぶん一緒に居てあげることが、あの人にとって一番の薬になるんじゃないかな。だから今のままで大丈夫だと思うよ?」
「そうなのかな?」
「だと思うよ」
というわけでネビィオちゃん、お幸せに。