熱風に逆らい、しなやかに、ドル・パンサーが地を駆ける。続いて電飾に包まれた豪奢な浮遊機械が低空飛行。やや場違いなカムシカも、炎をものともせずに灼熱の大地を突っ走る。
それぞれの相棒にまたがり新天地をゆく冒険者たちは、皆一様に何かを追い求めるようにせわしなく地を駆けていた。
聞くところによると、このあたりで採れる鉱石や樹木が新素材として高値で取引されているらしい。
血眼で売れ筋商品を求める旅人たち。新世界、新天地といってもロマンだけでは食っていけない。先立つものは常に必要なのである。
私自身、先を急ぐ旅ではない。彼らに倣い、いくつかの素材を拾ってみた。
結果、懐が温かくなった。……物理的に。
「ただでさえ暑いのに、なんてこんな熱い石拾ってくるの!」
リルリラが頬を膨らませた。道具袋には、赤熱したホカホカストーン。……私だって、欲しくて拾ったわけではない。
同じく素材を探していたもう一人、いや、もう一匹の道連れは、溶岩石のカケラを口にくわえて戻ってきた。爬虫類の舌が灼けた石をチロチロと舐める。熱は気にならないようだが、悪食も大概にした方がいい。
竜の大地、ナドラガンドの風が鱗に馴染むのか、汗だくの我々二人をよそにドラゴンキッズのソーラドーラは生き生きと周囲を飛び回っていた。
もちろん、冒険者たちを出迎えるのは新素材ばかりではない。我が物顔にナワバリを踏み荒す異邦人らに烈火のごとく襲い掛かるのは、アストルティアでは伝説の中にしか生息していない魔物達だった。
中でも目を一際引いたのは、皺だらけの一頭身に手足を生やし、杖を構えた鬼面同士と呼ばれる魔物である。
私が子供の頃よく読んでいた物語において、孤児である勇者の育て親が、善き心を持つ鬼面道士ブラス老だった。その意味では思い入れの深い魔物だ。
もっとも、ナドラガンドの鬼面道士たちはブラス老のように思慮深いタイプではないらしく、やたらと襲い掛かってくるのだが……
いずれ魔物使いが彼らと意思相通できるようになったら、一匹スカウトしてみたいものである。
しばらく戦闘が続いたが、やがて敵わじと判断した彼らはごろごろとアルマジロのように体を丸めて去っていった。
さて、冒険者たちを出迎えるものがもう一つ。
街道、と呼べるほど整備されていない荒れ道に時折、思い出したように建てられた石像がそれだ。ナドラガンドの民が崇める神の像だろうか。その頭部は猛々しいドラゴンのそれである。リルリラがしげしげと竜の顔を見つめ、ソーラドーラも一緒になって覗き込む。
片や僧侶、片や竜の子。竜族の崇める神には多少の興味があるらしい。もちろん、私自身もそれなりに好奇心を掻き立てられる。
ともあれ、どうやらこの石像と旅人たちの足跡を辿っていけば、人里へと辿り着けそうだ。
「人里……どうかな」
像から目を離したリルリラが彼方を見つめて呟いた。
「竜の里かも」
顔を上げ、エルフの視線を追う。と、灼熱のカーテンが揺れる空に、滲むように浮かぶシルエットがあった。
私は思わず剣の柄に手をかけた。
それは岩陰から顔をのぞかせた巨大なドラゴン……否、巨大な竜神像である。体表には鋭くとがった角がいくつも生え、威圧的なアギトは空を食らうように大きく開かれていた。
風の音と共に紅炎が牙の間を通り抜ける。その光景は、竜が火を噴き、空を焦がす様を思い起こさせた。
アストルティアを襲った竜族の牙。巻き起こる戦火の予感が頭上に渦巻く。
私に、このナドラガンドへやってきた理由を思い出させるには、十分な景色だった。