盗賊作戦も失敗に終わり、牙王との戦いはいつ果てるともなく続いている。
「いい加減に諦めたらどうだ」
ゴースネルも若干呆れ顔である。
だが、私にはもう一枚、切ってみたいカードがあった。
魔法戦士として、やや抵抗のあるカードでもある。
それは賢者。
バイキルトとフォースによる攻撃補佐という本来の役割を捨てた、魔法戦士、賢者、僧侶2名の変則構成である。
賢者ならば盗賊以上に的確にテンションバーンを打ち消し、その上蘇生と回復にも回ることができる。足止め技が無い分は、これで補って余りある。
ただし、攻撃面は期待できない。賢者お得意のドルマ系呪文を、牙王の持つ闇の瘴気が軽減してしまうからだ。
では、攻撃役は誰が担うのか?
……知れたこと。私自身である。
ライトフォースとバイキルトを身にまとい、さらに輝石のベルトで光の理力を増大させた魔法戦士の隼斬りは、バトルマスターの連撃にも比肩しうる……と言うと流石に過言だが、生半可な爪使いよりは上である。
全体的に敵の攻撃を避けるのが苦手な酒場の冒険者たちに比べればフォース、バイキルトをかけ直す手間も省ける。
長期戦故の魔法力の枯渇は、マジックルーレットで補う。もっとも、この敵を相手に足を止めてルーレットを回すのは、かなりの博打ではあるのだが……そこは致し方なし。
長い戦いを経て、敵の手の内と対処法もようやく呑み込めてきた。
各種の突進は、やはり横に動くことでこれを凌げる。横薙ぎの爪の動きは、巧妙かつ狡猾なフェイクである。
ただし牙王は頻繁に軌道修正を行うため、ただ真横に逃げ続けるだけでは結果的に斜めに逃げる形になり、避けきれない。これまで、必死で避けようとして直撃を喰らっていたケースが、まさにこれだ。
避けるべき方向は常に "牙王から見て" 真横。敵を中心に、円を描くような動きで避けるべし。
闇の衣にはファランクスとスペルガードで守りの一手。突進系を喰らわない限りは一撃を耐えられる。
紫雲の竜巻の気配を感じたなら、すかさず道具袋に手を突っ込む。毒消し草の用意だ。
破滅の流星は、落下位置を特定してから衝突するまでの時間が非常に短い。牙王が詠唱を始めた瞬間から常に動き続け、いつでも回避行動に移れるよう警戒した方がいい。
幸い、酒場で雇った冒険者はこれを避けるのが非常にうまく、まず確実に避けてくれる。被害をゼロに抑えられれば僧侶の負担はかなり減るだろう。
いわゆるSUMO、壁は無理に意識せず、散開して被害を散らすことに専念した方がよさそうだ。
意思疎通のできる友人たちと共闘するならともかく、酒場の冒険者では巻き添えを増やすだけの結果に終わる可能性が高い。
また、攻撃を焦らず、自分が狙われていないことを確認するまでは回避の準備に専念することも重要だ。
これは、あらゆる戦いに通ずる普遍的な戦術と言えるだろう。
そして最後に、盤外からの一手。
私はレンドアのドロシーに呪符を見せるや否や、魔法の迷宮を全速力で駆け抜けた。風の如く、矢の如く!
最奥部、呪符の力により牙王ゴースネルが呼び出される。
「懲りずに来たか、無謀なる挑せ……」
「覚悟!」
「うおっ!?」
口上を待たずして戦闘に突入する。
別段、不意打ちをかけようというのではない。
かつて時間切れとなった教訓を生かしての"速攻"である。
そう、制限時間は魔法の迷宮に入った瞬間から計測される。呑気に会話や写真撮影を楽しんでいる暇はないのだ。
攻撃役が実質的に私一人になる以上、これは勝敗に絡む重要な"戦術"なのである!
「貴様ら、戦いの美学をなんと心得る!」
いきり立つ牙王が激しい雄たけびを上げる。背後に回ったはずの私の身体が何故か吹っ飛ぶ。どうやら牙王の怒りは空間をも歪めるらしい。
お互いに予想外のアクシデントで幕を上げたこの戦い。
さて、どう転ぶかな……?