===
あくる日のこと。ドルワーム王国の王宮 兼 王立研究院。通称・水晶宮。
ポポムは研究院の応接室において、一人の老ドワーフと向かい合って座っていた。
「その後、進展はいかがでしょうか、ティーザ先生」
丁寧に質問するポポムに対し、ティーザと呼ばれたドワーフは難しい顔で沈思していた。
この日、用心棒と呼ばれた少年と別行動を取ったポポムは、自身の恩師である賢者ティーザを訪ねていた。
見習い賢者時代の旧交を温めるため――ではない。世界警察警視長ポポムとして、かねてからの依頼事項の確認に来たのである。
「よくわからんのう」
ようやく口を開いたティーザの答えは、歯切れの悪いものだった。
「調査を開始して一か月程度じゃもの、わかるものもまだわからん段階じゃ。難航してるのは事実じゃが」
「天才ドゥラ院長との共同調査でも手こずるほどですか。一か月あれば取っ掛かりくらい掴めたのではないですか?」
「一目で見てわかる凄み以上のことは、なんともなっとらん。科学・魔法両面の観点であらゆる内部解析を試みておるが、軒並み拒まれておる」
「『拒む』とは?」
「そのままの意味じゃ。あらゆる測定に対し、あるときは無反応、あるときは極めてノイズが強い滅茶苦茶な測定値を返して、なんの法則性も見いだせない。
へそ曲がりの被検体を相手に、返事のない質問を何度も繰り返している気分じゃ。本当に『世界を滅ぼす魔法』が刻み込まれているのかもわかっとらん」
ティーザは渋い顔を浮かべた。一角の研究者として、研究が進まない状況は慣れているとはいえ、打つ手をことごとく躱されているような調査結果はあまり面白いものではないだろう。
「やはり、目途も立ちそうにないということですか」
「今はまだ、な。弱みを見つけないことには、世界警察の望む『兵器の破壊』は難しいとしか言えんのう。一年経てば、また状況は違ってくるはずじゃが」
ポポムの険しい顔を見ても、ティーザからは慰めるようなことは言わなかった。気休めを言ってもしょうがないことは両者ともわかっている故、事実を並べるしかない。
二人が話題にしているそれ――『魔王集合体』と呼ばれるものは、一か月前のオールドレンドア島から回収された。
見た目は鋼鉄で作られたように見える、表面が大きく波打った卵状の物体である。呪術王対策チームがオールドレンドア島において交戦した『紫色のドラゴン』、その核とみなされるものだ。
『紫色のドラゴン』の戦闘力は対策チーム戦闘員の平均値を超えるもので、部隊に大損害を与えたが、『時の王者』フィンゴルと部隊の必死の攻勢によって討ち取られた。フィンゴルの攻撃によって、『紫色のドラゴン』の身体が崩壊した後、その遺骸から取り出されたのが、この卵状の核だった。
その後、製作者である呪術王カワキのアジトから押収された資料において、『紫色のドラゴン』および鋼鉄の卵に関する記述が認められた。曰く、内部に『世界を滅ぼす魔法』の立体魔法陣が刻まれ、その発動に必要な魔力を集める自動兵器。その呼称が『魔王集合体』というものだったのである。
走り書きのような資料であったため、その製造過程は謎に包まれているが、『魔王集合体』という呼称は、この上なく最適なものだとポポムは思った。伝説に語られる魔王の傍流、四体もの世紀の怪物を一つに固めた狂気の兵器として、その名前は度し難いほどに相応しい……
・続き:
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/127254852654/view/7790942/