押収した『魔王集合体』の核に対して、世界警察警視総監が下した判断は、当然『破壊』だった。呪術王カワキ以外に制御するすべがない兵器など、廃棄するしか道はない。
しかし、ことは簡単には済まなかった――世界警察の面々がどう手を尽くしても、核を破壊できなかったのである。
炉にかけてハンマーで打ち付けても、万力や重機で挟み込んでも一切変形しない。明らかにただの鋼鉄製ではない。更に、その殻の内部にはマジックバリアと思しき力場が発生しており、攻撃呪文も意味をなさなかった。
そもそも、物理攻撃力では世界最強とされるフィンゴルの一撃をして、破壊できなかった代物だ。尋常の手段で破壊できるものではないのかもしれない。
極めつけに、倉庫に保管していた核が、周囲から魔力を吸い上げていることが判明したときは、署内が軽いパニックに陥った。
『魔王集合体』の核は、未だ生きている。このまま放置すれば、『紫色のドラゴン』か、あるいはもっと別の強大な魔物が復活しかねない。マホトーン<呪文封じ>の魔法陣を敷いたポータル牢に厳重に封印した後、世界警察署内は重苦しい空気に包まれた。
万策尽きた世界警察は、かねてから協力を仰いできた水晶宮に『魔王集合体』の核を預け、その破壊方法を研究するよう依頼した――そして現在に至るのである。
無茶ぶりとしか言えない世界警察の依頼も、水晶宮は黙って引き受けた。その態度は、世界平和を守る使命感というより、何か下心があるとポポムは睨んでいた。
腐っても世紀のアイテムメーカー、呪術王カワキの被造物である。賢者集団として、大いに好奇心をくすぐられても不思議ではない。
依頼から一か月しか経っていない時点でポポムが訪ねてきたのは、何も研究視察のためだけではない――水晶宮内部のドワーフたちが、妙な下心や功名心を抱いていないか、目を光らせているのだ。
知的好奇心が暴走して滅んだ国は一国や二国では利かない、ドワーフの悪癖である。ティーザは信用できるとしても、研究院におかしな空気が蔓延していないか警戒するのも、世界警察として当然の義務である――と、少なくともポポムは考えていた。
今のところ、そのような心配は杞憂だとわかっていても、ポポムは気を緩めない。そのような女だった。
そしてティーザは、かつての弟子がそういう性質のドワーフであることをよくわかっていた。恩師に向けるべき目をしていないポポムに対しても、ティーザはいつもの渋面を崩さなかった。
「今すぐどうこうなる問題ではない、とは、ポポム君もわかっておろう?核は今のところ小康状態にある。魔力供給も絶っておるし、気長に観察して隙を見つける他ないのじゃよ」
「……そうでしょうか。魔力供給を絶っても、内部に貯蔵された魔力まで消失するわけではないでしょう?予想もしないタイミングで魔物形態になる可能性はないのでしょうか?」
「わからないことも多いが、差し迫った危険はないと見ておるよ。
聞くに、『紫色のドラゴン』は、呪術王カワキが起きている間しか正常に稼働していなかったわけじゃろう?それが『魔王集合体』の構造上の欠陥であるのか、あるいは呪術王カワキが意図的に施したセーフティなのかはわからぬが……彼の者が意識不明である今、魔物として駆動する可能性は低いはずじゃ」
淡々と見解を語るティーザに対し、ポポムはまた渋面を浮かべた。
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