私たちが四人で暮らしはじめて、
もうすぐ1ヶ月の歳月が過ぎる。
幸せよ。
なのになんで
あなたが、あらわれるの
%PICID-425372085%「ねえ、まおん?」
「なに、アーミラ?」
「なんの本を読もうかしら。サキアも雪も寝てしまったし、暇なのよ…」
「誰、その名前? …ああ、そうね。時渡りの若者に、受験に落ちた少女…だった? よく覚えているものね」
その言葉に、アーミラが反応する。
「まあ、私たちが望みに望んだ遊び相手よ? 覚えて当然よ。まおんこそ、あまり関心無さそうに見えるけれど?」
「私はーー」
サキア「…アーミラ、まおん…一緒に寝よう……」
「あら、サキア? 二人だと寂しいの?」
すかさず声をかける。
サキアはトロンとした目をこすり、上目使いにこちらを覗いている。
この宮殿にすむことを激しく拒否した彼に、二人は強力な記憶操作の魔法をかけるしかなかった。最初は抵抗したものの、魔族の魔力には抗えなかったようだ。
サキアは弟のことも忘れ、今はすっかり甘えている。
サキア「うん…」
「…仕方ないわね、私が一緒に寝てあげる。アーミラは忙しいみたいだし? さあ、いくわよ」
「…! え、ええ、お休みなさい…」
部屋から服の裾が消えると、姫主は思わずテーブルに手をつき、止めていた息をはいた。
「…なんてことかしら。あのまおんが、鋭いだなんて…」
双子の片割れは、決して鋭い方ではない。片方は頭脳、片方は直感、二人で役割分担をして生きてきた。アーミラは心底驚いていた。
だが恐らくは、単に楽しかっただけであろう。無関心をよそおっているようだが、誰よりも「二人ぼっち」を恐れていたのは彼女だということを、知っていた。誰よりも「家族」が欲しかったのは彼女だということを、知っていた。
たとえそれが歪な形であろうとも。
やはり、鋭くなったわけではなかったのかもしれなかった。
アメジストの瞳を細め、薄く笑う。
「…さぁて、甘えん坊のまおんも行ったことだし、用事をすませるとしましょうか」
サキアがいずれ来て、自分たちを呼ぶだろうとは思っていた。
本を選んでいたのはそれを待つためだったのだが、まおんのおかげで断らずにすんだ。
部屋を出ると、暗い廊下の奥へと向かった。
祈る。
かつての「片割れ」へと。
祈る…
「…?」
神殿の回廊にて、不穏な空気が孕む。
視線を動かせばればそこにはーー
「…っ、! あ、あなたっ…!!」
黒髪の少女が一人、アーミラをみつめていた。
紅い目が笑い、そっくりに首をかしげて見せる。
「お久しぶり、お姉さま」
%PICID-426458248%「なぜ驚くの? 実の妹じゃないの」
回廊に暫し、落ちる滴の音だけが響いた。
姫主は呆然と立ちすくみ、目の前の虚像を見つめる。
にっこりと口のはしを持ち上げるのを見て、虚像ではないのだと悟った。
妹?
「あなた、…」
妹なのか。
「……セラ…ね」
まおんとの誓い。
姫主たるゆえん。
そのすべては、今目の前にあった。
«お姉さま! 遊びに行きましょう!»
«私たちは主とならなければいけないの…! そのために、セラ…»
«お姉さま? ねえ、お姉ーー»
灯火の消える音がして、%PICID-426459092%昔
主になるために
実の妹を犠牲にしたことを
再認識させられた
いつもここで祈る。
魔障となった妹が安らかに眠れるように。
心弱き者をそそのかす魔障。
セラの姿をみて、自分がその全てを奪ったのだ、とーー
幸せの、崩れる音がした