ゼツカの冒険日誌

現実世界と時を同じくして
ゼツカはまたしても
あの時と同じ空間で目を覚ます。



音のないあの世界。



無機質なあの世界。



そう



クロウズから手紙をもらい
ムストの町に来る直前に見た
あの悪夢であった。



ゼツカ
「またここか…」


ゼツカ
「ていうか…私はどうなったんだ…？」


ゼツカ
「まさか死んだのか？」




スライダーク
「左様…」




ゼツカ
「！」






問い掛けに答えたのは
あの悪夢に出てきた
死神・スライダークであった。


ゼツカ
「…またあんたか…」


スライダーク
「…」


ゼツカ
「私は…死んだのか？」


スライダーク
「左様だ…故に我がここにいる…」


ゼツカ
「…死神…か…」


スライダーク
「…」


ゼツカ
「だが死神よ…私はまだ死ねないんだ
向こうでまだやることが…」


スライダーク
「ふ…ふははは…」



突如スライダークが笑う。



ゼツカ
「何がおかしい？」


スライダーク
「貴様…自分の立場を理解しておらぬのか…？」


ゼツカ
「…？」


スライダーク
「先程から自分で言っているであろう？
貴様は…『死んだ』のだ…」


ゼツカ
「…！」


スライダーク
「死者が現世に干渉するなどあり得ぬ事ぞ…」


ゼツカ
「…ふざけるな！」


スライダーク
「死人に口無し…おとなしく《無》に還るといい…」


ゼツカ
「嫌だね、私にはまだ成すべき事がある…世界を変えなければ…それまで私はまだ死ねない…」


スライダーク
「…貴様も…《英雄》であるか…」



しばしの沈黙の後に
スライダークが語り始めた。





スライダーク
「ふ…まぁ何を言おうと貴様は死んだのだ…
例え英雄であろうと…それは覆せぬ…」


ゼツカ
「…」


スライダーク
「…我もかつては…死神に身を堕とす前は…
英雄と呼ばれていた」


ゼツカ
「？！」


スライダーク
「名をスライダーヒーロー…
竜族との戦いで我は名を馳せた…
多くの人々の夢、希望を背負い
長きに渡り竜族との戦争に
身を置いていたのだ…」


ゼツカ
「…」


スライダーク
「しかし長き戦故、人間達は
疲弊しきっていた…
故に我は《とある一族》に
助力を申し出た…」


スライダーク
「しかし、その一族は我の申し出を
拒否したのだ…今思えば当たり前の事…
進んで戦争の片棒を担ごうなどとは
誰も望みはしない…」


ゼツカ
「…」


スライダーク
「だが…英雄と持て囃され
我の目は曇っていた…
我の申し出を拒否した事で
その一族を《悪》と決めつけ…
蹂躙したのだ…」


ゼツカ
「…」





スライダーク
「しかし…ただ一人…
そんな我の前に立ちはだかる勇気を
持った小さき者がいた…その者は言った…
これ以上みんなをいじめないで…と…」



ゼツカ
「…」



スライダーク
「我はその言葉を聞いて目を覚ました…
我がやっていることは罪なき人々を
虐げる竜族と変わりないと…
しかし…時は既に遅く…
気づけばその小さき者を除いて…
皆息絶えていた…
故に我はてせめてもの罪滅ぼしに
《その者》を逃がした…」



スライダーク
「だが我が犯した罪は重い…
故に我は自ら命を断ち…
多くの魂を安らかに冥土へ送る
死神となったのだ…」



ゼツカ
「…その逃がしたやつは…生きているのか？」



スライダーク
「…わからぬ…が、その逃がした者…名を…」













スライダーク
「《マルチナ》といった」










～つづく～