「じゃああたしが。前ね、こんな事があったのよ。その日は美術の授業で絵を描いていたの。でもあたし、あんまり絵を描くのって得意じゃなくて。授業だけだと提出期限に間に合いそうになかったから持って帰って寮でも描こうと思ったの。秋だったから日没が早くて美術室に向かった時はもう真っ暗だったわ。校舎内に人もあまりいないし。あたしの靴の音がやたら大きく聞こえた。それでね、美術室に着いて明かりをつけたらね、部屋にあった彫像がゴゴゴゴって音をたてながらあたしの方を向いたのよ!あたしは悲鳴をあげて逃げた。勿論絵は期限に間に合わなくて最低の評価がついたわ」
「クラウンわりぃ。それ俺だわ」
「え!?」
「去年の秋だろ?俺、美術部の奴からコンクールの手伝いしてくれって頼まれてて放課後に彫ってたんだ。急に明かりがついたと思ったら女の悲鳴がしてあの時は俺もびっくりしたぜ」
「なんだ、アイゼルだったの!?明かりくらいつけなさいよね!」
「夢中でやってたらいつの間にか暗くなっててよ」
「あらあら。残るはラピスさんね。何か良いお話は見つけられたかしら?」
「夏……夜の旧校舎。まっくら、だれもいない。わたしたち以外。だれかが走ってくる」
ばたばたと廊下から誰かがこの部屋に向かって走って近付いてくる音がする。
「現在進行形の怪談かよ!?」
「やだこれオバケなの!?嘘でしょ!?」
「クラウンさん任せて下さい!私が斬ります」
「オバケって斬れんの?」
足音はこの部屋の前で止まった。そして扉が勢い良く開かれる。
「ハアッ」
フランジュがオノで斬りかかる。
「うわッ!?」
フランジュのオノはよけられた。
「あ、れ?」
フランジュは二撃目を振るおうとして動きを止めた。
「主人公さん!?」
主人公がフランジュのオノをよけ尻餅をついていた。
「斬りかかってすみません主人公さん!今日は来れないはずじゃ?」
「用事が早く済んだから急いで来たんだ。皆に会うの久し振りだし」
「そうですよね、お久し振りに会えて嬉しいです!あああ、本当にすみません!」
「連絡してなかったし驚かせちゃったよね。ごめん。でもまさか斬られるとは」
「アンタが変なタイミングで来るからだよ」
「主人公さんも怪談する?」
「是非!その為に来たんですよ。ではいきますね。学校の怪談……もとい学校の階段は、段数がいつもより多ければそれは最後の余分な段が死体だとか、逆に少なければ異世界に踏み入れてしまうだとか噂があるそうですね。先程、この旧校舎の2階は空き教室に来る途中に階段をのぼったんですけど、本当なら30段のぼって踊り場があってまた30段なんですけど、30段のぼって踊り場の後、29段しかなかったんですよね。急いでたから数え間違えたのかもしれないんですけど」
「気付いてしまったのね。可哀想に」
シュメリアのメガネが光った。
「え?」
「黙っていれば無事に帰れたかもしれないのに……。フウキ委員、主人公さんを異世界の住人にせよ!」
リソルが指をパチンと弾くと教室の扉にカチリと鍵がかかった。
「えっえっ……うわあーーーー!!!」
アイゼルが主人公の右腕を、ミランが左腕を、クラウンが右脚を、フランジュが左脚をロックした。
ラピスの長い毛髪が主人公の首に絡みつき絞め上げる。
「う、ぅぐう」
喉がしまり声が出せない。
意識が遠のく主人公が諦め目を閉じようとしたその時。
「なあんちゃって〜!皆、もう良いわよ!」
主人公を捕らえていた全ての力が解かれた。
「……?」
「じゃじゃーん!」
混乱する主人公の目に入るメルジオルの持つ「ドッキリ大成功!」の看板。
「????!」
「少しやり過ぎたのではないか?声も出せぬようじゃぞ?」
「ちゃんとメルジオルで練習した」
「わしは首が無いからのう。加減が違ったかもしれぬの」
まだ訳が分からない様子の主人公にシュメリアが説明する。
「ごめんなさいね。主人公さんが全然私達に会いに来てくれなくて寂しいからリソルくんが懲らしめてやろうって」
「そんな事言ってないから!」
「主人公さんはがめついから怪談の最優秀者にはマイタウンメダル500枚贈呈って言えば死んでも来るからってリソルくんが」
「先生のくせにそんな嘘ばっかついて良い訳!?」
「ええ……!?じゃあマイタウンメダルが貰えるっていうのは嘘ですか?!」
「そうよ。ごめんね」
がっかりする主人公。
「巨大化してさっさと宇宙人片付けてきたのに……」
何かブツブツ言っている。