前回までのあらすじ
岳都ガタラに突如として現れた群衆はドワ子集会の参加者達によるものだった。調査を行った結果、この集まりの開催場所や日時といった情報を得ることができた。しかしなぜこれほど大量のドワーフが集まってくるのか、彼らが熱狂している原因は何なのか、つまるところドワ子集会の人気の秘密とは何なのかという本質的な情報まで届くことはなかった。次こそは核心に迫ってみせると決意を新たにするゴローだった。
「この町は相変わらず人が少ないな」
ガタラ駅から出てきた私は辺りを見てそう呟いた。11月中旬ともなれば寒風は一層厳しくなり、ちらほらと見かける町行く人々は皆コートを着込んでいる。岳都ガタラは山の斜面を利用して町が築かれており、鉱石の採掘に特化した産業都市として発展してきた。特産のプラチナ鉱石で有名だが、最近ではナドラガンド産の高級鉱石に押され気味だという。町中は石畳で美しく舗装されていて、往時には観光客でさぞかし賑わっていたのだろうなと感慨にふけりながら高低差のある道を進んでいった。
広場に着くとすでに多くのドワーフが集まっていた。前回と同様に彼らは歌と踊りに夢中になっている。この状態のドワーフにはまともに取材ができないので、しばらくは様子見だ。土曜日ということで、いつも以上に彼らの動きが激しい。この調子だとガタラ展望台でも話が聞けないかもしれない。
当然と言うべきか、展望台は興奮状態のドワーフで溢れていた。取材を諦めかけたそのとき、今回の遠足先が発表され思わずニヤリとした。
「これは俺にも運が向いてきたな」
今回の目的地はオーグリード大陸はラギ雪原の小屋前だった。この寒空の下で雪中マラソンなんて正気かと思ったが、休日でハイになっているドワーフ達の頭を冷やすには最適な環境であり、彼らとの会話から情報を引き出さなくてはならない私には願っても無い目的地だった。私は馬車とドルボードを利用しながらラギ雪原へと向かった。
現地では案の定ドワーフ達が力尽きて倒れていた。彼らの体力が戻り次第、さっそく話を聞いていきたい。私にとってはここからが本番だ。橋を渡って小屋前で待機するため移動しようとしたとき、またもやアクシデントが起きた。
「攻撃開始!」
DST(ドワーフ・スペシャル・チーム)の面々が橋上の障害物を撤去しようと活動しているようだ。なぜこんな箱が橋を塞いでしまったのか、私だけでなく周りのドワーフ達も困惑している。キュアナ特務中尉(寒冷地装備)は部隊の指揮を執るのに忙しそうだったので、歩哨として立っていた兵士に話を聞くことにした。
「一体何があったんですか?」
「民間人は危ないから離れるだわさ。原因は調査中だわさ」
語尾が気になるが、とりあえず彼らもまだ事態を把握していないようだ。それにしてもDSTは手際が良い。まるで専門の工兵のようだ。
「あらゆる任務に対応できてこそのDSTだわさ。当然、工作活動もお手の物だわさ」
あっという間に橋が復旧し、無事に小屋前に辿り着くことができた。そして橋付近に潜んでいたドワーフが器物損壊の容疑で拘束された。取り調べでは
「かつてドワ子集会には20ナスはいたのに今では私の1ナスしかいない」
「何とかしなければならない。私が現状を変えなくてはならない」
と発言しているようだ。ナスを愛するあまりの暴走に、世間では恩赦を与えるべきだとの声が上がっている。
文字数調整に失敗したので後編に続く