「ご来店ありがとうございます。本日の接客を担当させていただきます、ユウと申します」
「ルリです☆」
アイドル云々の疑問はスルーされ、自己紹介を始めるどわ嬢たち。
ユウは金の盛り髪に青い瞳、白地のシャツとパンツの上に黒い貴族服を羽織り、膝下まであるブーツを履いている。
ルリはアイスブルーの団子髪に金の瞳、ダークグレーのドレスはなかなかサマになっている。赤い手袋にヒールを履いていて、夜会に行けそうな装いだ。
「よく考えたらアイドルがこんなところにいるはずないよな。騒いですまなかった」
「いえ、お気になさらず。それではゴロー様、お飲み物は何になさいますか?」
「そうだな……カルピスをくれ。君たちの分も頼んでいいぞ。おっと、お嬢さん方にカルピスはキツいかな? フハハ!」
「どわ嬢に不可能はありません。ルリちゃん、注文をお願い」
「はーい☆ カルピス3つくださーい!」
よく通る声がホールに響いた。よし、飲み物が来る前にこの辺の地理について聞いておくか。早く帰ってドワ子集会の調査を再開しなければ。
隣に座るユウに声を掛けようとしたそのとき、
「お待たせしました。カルピスの原液でございます。ごゆっくりどうぞ」
注文からまだ数秒しか経っていないはずだが……俺の動揺を余所に、制服を着たオーガの女性がカルピスだけを置き、あっという間に立ち去った。そしてこの場には水や氷が無い。まさかこのまま飲めとでもいうのだろうか。
「このカルピス、割らないのか?」
「割りましょうか?」
「頼む」
「かしこまりました。ルリちゃん」
「オッケー☆ おりゃああああああああ!」
ルリがカルピスに向かって凄まじい速さで拳を突き出した。グラスが砕け、中のカルピスごと吹き飛んで行った結果、前方の壁に小さな染みが出来た。どわ嬢たちは、「さすがルリちゃんね!」「大したことないよ☆」と盛り上がっている。
この店はおかしい。周りのテーブルに耳を澄ませると、
「「キャー! タダオさん素敵! 抱いて!」」
「オレがまとめて可愛がってやるぜ! HAHAHA!」
などと騒がしくなっている。店に入ったのは失敗だったかもしれない。
そして俺の目の前に新たなカルピスの原液が差し出される。
「よろしければ私の分のカルピスをどうぞ」
「一緒に飲もう☆」
どうやら逃げられないようだ。もうこのストレートのカルピスを飲み、1秒でも早くLazuliから脱出したほうがいい。地理の確認は後回しだ。
グラスに口をつけ少量を含むと、カルピスの強烈な香りが広がると同時に、全身に雷に撃たれたかのような衝撃が走った。やはりストレートなんて飲むんじゃなかったと後悔しながら俺は再び意識を失った。
目が覚めると俺は獅子門にいた。慌てて身の回りを確認したが、装備や荷物が盗まれている様子は無い。一体何が起きたのか。
後頭部に鈍い痛みを感じて手をやると、小さなコブが出来ていた。ズキズキと痛むそのコブを擦っていると段々意識がはっきりしてきた。そうだ、俺はドワ子集会の調査に来て襲われたんだ。
もう完全に朝日が昇ってしまっている。集会はとっくに終わっていた。油断しているつもりはなかったが、これで調査は振り出しに戻った。一筋縄では行かない相手に少し萎えながらも、頭では先ほどまで遭遇していたLazuliのことを考えていた。
状況から判断すると夢だったのは間違いないが、なんとも奇妙な店だった。もし次に行く機会があれば、今度は最初から水で割ってあるカルピスウォーターを頼んだ方がいいかもな……と意味も無いことを考えながら、拠点としているグレンへの帰路についた。
~終わり~
※日誌はフィクションです。どわ子キャバクラで豪遊した事実はありません!