ボクの名前は上腕二頭筋くん!
今日はボクの筋肉生活を紹介するよ!
ついて来て! Let's muscle!
■トレーニング
ボクレベルの筋肉となると、これを維持するのは簡単なことではないんだ。
だからこそ普段からのトレーニングが重要になってくる。
見てごらんよ。ブートキャンプも真っ青な超高負荷トレーニングさ!
近所の筋肉さんたちも相変わらず頑張ってるね。
ボクも負けてられない。
筋肉とは1%の才能と99%の努力なのだ。
■腹筋ちゃん
あ! 腹筋ちゃんがいる!
いつ見ても最高の筋肉だ……。
悠久の時を超えて樹齢を重ねた屋久杉のような存在感を放ちながらも、
木目の豊かなマホガニーを思わせる上品な肉をしている。
腹筋ちゃんのことを想うと筋肉痛が治まらないよ。
よし! 今日こそ声を掛けるぞ!
筋肉は熱いうちに打つのだ。
■筋肉デート
ついにこの日がきた。
今日は腹筋ちゃんと筋肉デートだ。
うまくエスコートできるだろうか。
いやいや、今日のために筋肉質なデートプランを立てたんだ。
弱気になってたら筋肥大できないぞ!
合流したらまずはジムでトレーニング、それからプロテインショッピングだ。
………………
無事にトレーニングを終えて上機嫌な腹筋ちゃんとジムを出た。
褒め殺し作戦がバッチリ効いたみたいで、
「腹筋ちゃん切れてる! 仕上がってるよ!」
「良い血管出てるよ!」
などの掛け声は確実に彼女の筋繊維に届いていた。
この調子で次はメインイベント、プロテインショッピングへと向かう。
事前の下調べで品揃え豊富なスポーツ用品店は把握済みさ!
――現実とは時に非情で、時に筋肉である。
店舗に着くと、想定していなかったマッスルアクシデントが発生した。
「上腕二頭筋くん。この団子プロテインとこの団子プロテイン、どっちが良いかな」
腹筋ちゃんが両手にプロテインを持って問い掛けてきた。
これは運命の二択だ。
彼女の中で答えは決まっていて、正解を選ばなければ全てが終わってしまう。
ボクの筋肉としての質が試されている。
タンパク質、脂質、ビタミン、そして今日のデート。
ヒントは既に揃っているはずだ。
悩んだ末にボクの出した結論は――。
■衝撃の事実
「ただいまー」
慣れ親しんだ我が家に帰ってきた。
今日は大変な一日だった。
え? プロテイン選びが最後どうなったかだって?
それは皆の想像に任せるよ。
ただ一つ確かなことは、筋肉を信じる者は救われるってことさ。
これじゃほとんど答えを言っちゃってるかな。アハハッ!
三月とはいえまだまだ外は寒い。
室内の暖かさをありがたく思いながらリビングを通ると、
マッスルファミリーが迎えてくれた。
「……おかえり二頭筋」
ファミリーは筋肉が強張っていてどこか様子がおかしい。
不審に思って尋ねると、予想だにしない答えが返ってきた。
「大事な話があります。実はここにいる私たちは、
血の繋がった本当の親子ではありません」
「なんだって!?」
平穏だった日常は終わりを告げ、物語は新たな局面を迎える。
自身が上腕二頭筋であると当たり前に受け入れて過ごしてきた彼は、
その存在自体が揺らぎかねない状況で
果たして筋肉を信じ続けることができるのだろうか。
運命の筋肉歯車がいま動き出した。