遠足というのだから近隣の平原へ足を延ばすくらいに思っていたが、
現在私がいるのはなんとオーグリード大陸はゲルト海峡。
とてつもない道程を歩かされた。
集団での大移動というのは他で経験することのできない貴重な体験だったが、
それにしても距離が距離だ。足がパンパンになっている。
眺めは絶景と言ってもいいほど良いが、吹き付ける潮風がとても強い。
このまま風呂に浸かったらそれだけで良い塩味のスープが作れそうだ。
目的地であるゲルト海峡では多くのドワーフが談笑している。
私が疲労した足を引きずって周囲の様子を見て回っていると、妙なドワーフを見つけた。
幼くもないが年老いてもいない。
泣いているように見えて喜怒哀楽のどれでもない表情。
高潔さと低俗さが同居しているかのような佇まい。
古い新しいという時代の概念を超えてこの世の真理を体現している。
なぜだかこのドワーフを見ていると創作意欲が湧いてくる。
私の芸術家としての人生に足りなかったものが突然与えられたような衝撃だった。
手元の鞄から作業道具を取り出し準備を整えると、あとはひたすら素材を捏ねる。
日付が変わりドワーフたちが一人、また一人と帰り始めるのも気にせず捏ねる。
どれだけの時間が経っただろうか。
気が付くと私の前には朝日を浴びて光り輝く像が完成していた。
その像には後光が差し、見ているだけで昨日までの悩みや苦しみが
洗われていくような不思議な気持ちになった。
――若き芸術家が生み出した神々しい像は瞬く間に評判となり
彼の人生はこの出来事を境に一変した。
像は東洋で信仰される仏像を基に“イム”と名付けられ、広く親しまれるようになった。
後年に彼がイムを作り出すきっかけについて質問されたときは、
ガタラの名物イベントについて朗らかに語った後に必ずこう付け加えた。
「ホントニドウモアリガトウゴザイマシタ」
~終わり~
※スク水ドワ子
リサちゃんを中心とした謎のスク水愛好家集団。
口癖は「ホントニドウモアリガトウゴザイマシタ」
※イム
仏像から着想を得たとされる異色のドレスアップ。
ドワ子の間で一瞬だけ流行りそうになった。