高く昇った太陽がじりじりと照り付けアスファルトを焼いている。
季節は夏も真っ盛り。すべての動植物が活き活きと生を謳歌している。
活気に溢れ人でごった返すガタラの街並みの中で、一人とぼとぼと歩くプクリポがいた。
「モテたい……」
彼の名前はゴロー。この夏に上京してきたばかりのピチピチのプクリポだ。
都会への憧れという漠然とした動機でガタラを訪れたゴローは、
いま深刻な悩みを抱えていた。
「これだけ人がいるのに、何で俺をモフろうとする女の子がいないんだ!」
絶望的にモテないのだ。
理由は簡単で、彼の自慢のプク毛が熱さに負けて本来のふわふわ感を失っているからだ。
地元では街を歩くたびに多くの視線を集めていた彼のプク毛は、
熱のこもりやすい都会のコンクリートジャングルに完全に屈していた。
このままではもふもふハーレムを築くなど夢のまた夢。
(↑もふもふハーレムのイメージ)
傷心中のゴローは少しでも気を紛らわせようと街を歩き続け、
気が付くとガタラ展望台に来ていた。
小ぢんまりとしたスペースに中央通りほどではないがそこそこの人が集まっている。
「はぁ……街を眺めながら風に当たっていれば少しはモフモフになるかな」
彼は自分のプク毛のコンディションを自覚していた。
分かった上で解決策の見つからない現状を嘆いていたのだ。
かつてのふわふわ感を取り戻せるなら神でも悪魔でもいいから助けてほしい――
そんな彼の心の叫びを聞き付けたのか、
「何かお困りですか?」
奇妙な男がゴローへと話しかけてきた。
とてつもなく巨大な男だ。椅子に腰掛けているのに顔が見上げるほど高い位置にある。
特徴的なアフロヘアーにサングラス。
はちみつに執着する熊のような色をしたアロハシャツに真っ赤なサーフパンツ、
つっかけ易そうなビーチサンダルを履いたラフな格好だ。
紳士然とした雰囲気を纏っているが、上記の通りラフな服装と、
何よりもその巨体の異常なほど発達した赤い筋肉が目に着くため、
どういう人物なのか判別できない。
一言でまとめると“怪しい男”だった。
その男は自らを商人の“しん”と名乗り、巧みな話術でゴローの悩みを聞き出した。
「お客様にピッタリな商品がございますよ」
そしてゴロー相手に商売を始めようとしている。
都会慣れしていないゴローだったがさすがにキャッチセールスであると気付き、
すぐに断ろうとした。
しかしそれを遮って続けられた商品説明にゴローは釘付けとなった。
「この“もふもふフェロモンZ”さえあればプク毛はふわふわになり異性にもモテモテ!」
男が取り出したのは良くある栄養ドリンクほどの大きさをした小ビンだった。
容器の中には桃(逆さにしたらラブリーなハート型になる果物)の色をした
液体が揺れている。非常に怪しい。
だが説明通りであればゴローにとってこれ以上ないほど必要な商品に違いなかった。
安ければ試してみたい……そう思ったゴローは値段を尋ねた。
「お代はいりません。お客様の満足が私にとって何よりの報酬となります。
さあ、商品をどうぞ。くれぐれも使いすぎにご注意を……」
~後編につづく~