ラルゲットの誘いにゆおんはニヤリと表情を歪めて答えた。
「安酒は飲み飽きたし、せかいじゅのしずくを垂らした一杯が飲みたいねぇ」
――世界樹の雫。
エルトナ大陸のどこかに存在するといわれる世界樹から採取される幻の回復アイテム。
大国の王家が少数所蔵するのみで、市場には一切出回らない貴重な品。
無理難題を吹っ掛けるゆおんに酒場中からブーイングが飛ぶ。
外野を一喝して黙らせ返答を待っているとラルゲットが気楽そうに応じてきた。
「了解した。数日ほど待っていてくれ」
踵を返して颯爽と酒場を出て行くラルゲットに呆気にとられるゆおん。
客たちは言わずもがなであった。
それから数日後、誰もがラルゲットのことを忘れかけた頃、
再び酒場へと赤いドワ子が訪れた。
装備のあちこちに傷が走り、ブーツには跳ねた泥がそのままになっている。
冒険帰りの様相に加えてその堂々とした立ち居振る舞いから、
あの場に立ち会わせ先日のやり取りを見ていた者は
まさか本当に世界樹のしずくを手に入れたのではとざわつく。
以前と同じく奥で酒を飲んでいるゆおんの前に立ったラルゲットは、
懐から一本の小ビンを取り出すと何も言わずにテーブルに置いた。
かつて一度だけ目にしたことのある実物と変わらぬ現物を前に驚愕するゆおん。
震える手で蓋を開け酒に一滴垂らすと、そのまま勢い良く呷った。
――なんとゆおんのキズがたちまち回復した!
光り輝く自らの体を見て瞬きを繰り返すゆおん。
そこに爽やかな笑みを浮かべたラルゲットが語り掛けた。
「君は随分と酒を飲み辛そうにしていた。腕を怪我していたのだろう?
これで狩りに失敗することも無くなるね」
何でもないような軽い調子で話すラルゲットにゆおんの顔は徐々に緩み、
ついには大笑い。ラルゲットは変わらず微笑んでいる。
「やれやれ。こりゃ一本取られたね。ラルゲット……いや、ラルさん。
今度はアタシが約束を守る番かね」
後にドワ子集会を率いることになるラルゲットと、
その彼女を他の姉妹と共に支え続けたゆおんの邂逅はこのような顛末であったという。