昔々あるところにラルゲットというドワーフがいました。
ラルゲットは動物が大好きなのでよく森に遊びに行きます。
今日はどんな動物に会えるかな。楽しみだな。
木漏れ日の差す森の小道をラルゲットは進みます。
しばらく歩いているといつもより森が静かなことに気付きました。
鳥の鳴き声が全く聞こえてこないのです。
不安になったラルゲットは帰ろうかと思い始めます。
するとそのとき、鋭い銃声が森の中に木霊しました。
銃声の聞こえた場所をおっかなびっくり覗いてみると、
ちょうど仕留められたあらいぐまを猟師が担ぎ上げているところでした。
ラルゲットは尋ねました。
「猟師さん。そのあらいぐま、殺しちゃったの……?」
猟師はラルゲットのほうに振り向くと良い笑顔で答えました。
「そうだよ。こいつは良い帽子になるんだ」
ラクーンハットはセレブに人気の高級品。
需要が尽きることはありません。
ラルゲットが悲しみに涙を堪えていると、猟師が諭すように続けました。
「嬢ちゃん、動物が好きなのかい? だとしてもあらいぐまはダメさ。
こいつらは気性が荒いし、人間の畑をめちゃくちゃにしてしまう。
どうやっても共存できないんだよ」
そう言うと猟師は足早に森を離れて行きました。
たしかに猟師は正しい。しかし理屈は理解できても納得はできない。
ラルゲットは硝煙の香りの立ち込める森で一人立ち尽くしてしまいました。
呆然とするラルゲットを現実へと引き戻したのは、小さな鳴き声でした。
いつもの森であれば聞き逃してしまいそうなか細い声が木の根元から聞こえてきます。
ラルゲットが目を向けると、そこにあると言われなければ気付かないような
小さな穴が目立たないように口を開けていて、さらにそこから小さなあらいぐまが
もそもそと這い出てきました。
親を失った未成熟なあらいぐまは放っておけば死んでしまう。
猟師の忠告に従うならこのまま立ち去るべきだが……。
悩んだ末にラルゲットはあらいぐまの子どもを育てることにしました。
人に優しい立派なあらいぐまに育ててみせる。
決意するラルゲットの腕の中で小アライグマは『ウー』と鳴くのでした。
オスカルと名付けられたあらいぐまはラルゲットの元ですくすくと育ちました。
オスカルはラルゲットの行く所のどこにでも付いていくので、
その存在がガタラに知れ渡るのに時間はかかりませんでした。
最初こそ野生のあらいぐまに難色を示す人もいましたが、
行く先々で愛嬌を振り撒くオスカルに皆絆され、いつの間にかガタラの人気者、
マスコットのような立ち位置を確立していました。
その人気はとどまる所を知らず、ついにはあの人気マンガ“蒼天のソウラ”の
第13巻に登場するまでになりました。
オスカルとラルゲットは仲の良い姉妹のように幸せな日々を過ごすのでした。
(後編につづく)
※解説
『ウー』という鳴き声はドラゴン・ウーという名前のツイッターアカウントが
定期的に発するツイートが元ネタで、公式とは無関係。
ドラゴン・ウーのアカウントは『ウー』の2文字以外のツイートは決して行わない。
オスカルさんはウーのツイートに対して頻繁に反応している。