来る日も来る日もライン工として働くこと幾年。
遂に辿りつくとこまで縫い続けてしまったのであった。
早速、マスターへその喜びを報告。
「マスター!オイラやったよ!!成し遂げたったよ!!」
「フフフ・・・流石、ワタシが正統な後継者と見込んで、裁縫のイロハを伝授しただけはありますね」
「ありがとう、ありがとうマスター。これからもさかなミシンとして、チクチク道を選ん歩んで行くよ」
「頑張るのですよ。さぁこちらへいらっしゃい。
カンスト祝いの儀。祝福の抱擁をいたしましょう」
マスターに誘われるまま、熱い抱擁を交わす。
灼熱の太陽が照らす中、滝の様な汗と共に無法者を縫いあげたあの日。
極寒、悴む指先。朦朧とする意識で原始獣を大量生産したあの日。
これまでのミシンライフが走馬灯の様にさかなの脳内に駆け巡る。
裁縫職人の師匠として、否、人生の師匠としてのマスターの熱い熱い抱擁は、真夏の魚市場の香りがした。
さかなはちょっとイヤだなぁと思った。