「はい。」
『ご主人様から指名が入ってます。』
「うれしいです。」
『たまに奇声を発したり、踊りだしたりしますが、しっかり止めてくださいね。』
「大丈夫ですよ。」
『妙に信頼してますね、他の方たちとの接し方とは違った感じがします。』
僕がご主人を信頼する理由、それは・・・
今ではだいぶ自信は持てたけど、僕はキメラ族の落ちこぼれだ。
縄張りを荒らす人間を襲うにしても翼が震えて何もできずに岩陰に隠れるだけしかできなかった。
そんな僕に毎日のように振るわれる言葉と体の暴力。
僕の生活は力が物を言う世界、戦えない魔物はただのゴミ以下の存在になる。
それが当たり前だったし、それしかないと思っていた。
いっそのこと猫島に渡り、体を差し出すことができればなんぼか幸せかとも思った。
とはいえ、そこに渡るための飛ぶ能力も持っていなかった僕は、毎日絶望しながら過ごしていた。
そんなある日
いつものようにイジメられ、動けなくなった僕は同族の皆の嫌がらせでジュレットの街に放り込まれた。
街の人たちは僕のことを怖がって恐怖の目を向けられ、石を投げられた。
ほうぼう逃げ回っているうちに住宅街にたどりついた。
その時
『よぉ、どうした?シケたツラしてるし傷だらけだし、とりあえずウチくるか?』
全身ピンク色の服を着た老人に声をかけられた。
「で、でも・・・。」
『デモもストライキもねぇよ。いいから、傷だらけで家の前に居られるこっちの身にもなってみろっての。』
「僕は落ちこぼれで・・・。」
『なんだ、ワシと一緒じゃねぇか、落ちこぼれ上等、落ちこぼれは落ちこぼれなりの生き方教えたらぁ。ま、ひとつよろしくな。』
半ば強引に、『心が成長したら名前を変えてやるよ』と言い『バイトくん』と勝手に呼び名をつけられその家に厄介になることになった。
それから楽しい日々が続いた。
たまに他の魔物に人間に媚びた腰抜けだと白い目で見られもしたけど、毎日のように絶望していた僕からしたら天国のようだった。
それでもいつも不安がつきまとう、いつか捨てられるのではないか?という気持ち。
そうならないように精一杯、できることをした。
でも、ある日のことだった。
とても強い魔物の討伐に出かけた時のことだった。
大事な局面で僕の体がすくみ、サポートが遅れたことが引き金となって魔物にご主人がボコボコにされた。
当然、仕事に失敗し、依頼者にもものすごく怒られた。
ご主人はただただ、土下座をしながら謝っている。
その姿を見てココロが痛くなった。
会話がないまま帰宅、家の前で僕に背を向け、考え事をしている。
もしかして愛想を尽かされた?
やっぱり僕は何やってもダメなんだ。
今まで良くしてくれた人に恥をかかせてしまった。
これ以上迷惑をかけないように、目の前から消えるたほうがいいのではないか。そんな思いが駆け巡った。
「ご・・・ごめんなさい!僕の・・・僕のせいなんです!だから・・・だから・・・ここから・・・。」
『いやー!見事にやられたな!バイトくん、体とか痛くないか?』
「え・・・?」
『すまんかったな、恥かかせて。チと油断した、はっは!』
「あれは僕のせいで・・・。」
『誰のせいでもねぇよ。まぁでも、がんばったんだろ?』
「精一杯やったんです!でも、言い訳にしかならないです!罰は何でも受けます!だから、だから・・・。」
やっぱり捨てられたくなかった。どうしてもここに居たかった。
そのとき主人背中を向けながら言った。
『精一杯がんばった仲間に与える罰は持ち合わせてないんだよな。』
「え・・・?」
『しゃあないことに文句を言っても意味ないだろ?ま、次がんばろうな。』
僕はただただ泣いた。
という話をバイトくんさまから聞きましたが・・・。
私に『ぶたやろう』と呼ばせて満面の笑みを浮かべているご主人様の実話とは到底思えないのは私の心が汚れているからでしょうか。
‐あとがき‐
そういった雇用主に私はなりたいです。
まぁ、店が大きくなれば、の話ですがね。