木工教室の悲劇後も、私は気を取り直してシュピと一緒にショッピングを楽しんだ。
気づけば日も大分傾き、城下町は徐々に赤く染まっていく。
今日の散策はこの辺りで切り上げることにして、私たちは旅館へと戻った。
「お帰りなさいませ。ジュセ様、シュピ様。」
綺麗なエルフの仲居さんが出迎え、私たちを部屋へ案内する。
内部は敢えてなのか、やや薄暗くなっており、所々に置かれている行灯の仄かな光がとても幻想的だ。
「本日のカミハルムイ観光は、いかがでしたか?」
廊下を歩きながら、仲居さんがたずねる。
「すっごい、たのしかったよー!えっとねー。今日は朝の4時に起きてねー…」
起床後から旅館に入るまでの出来事を、嬉しそうに事細かく喋るシュピ。
仲居さんは歩く速度を遅めてまで、うんうん と相槌を打ちながら話を聞いている。仕事とはいえ、出来た人だなと感じた。
「とても充実した一日だったようですね。明日はもっと楽しめるよう、しっかりお身体を休めてくださいね。こちらがお部屋でございます。」
扉を開けると、いぐさの香りがぷうんと漂ってくる。
12畳の空間に、座布団、机、お茶とお菓子。奥には障子に隔てられた小さな板張りの間があり、テーブルと、椅子が向かい合って2つある。
「見てー、ジュセ!ここからの景色、すっごいきれいだよー!」
板張りの間の窓からは、今日訪れた南大通りが見える。夕方なので明かりも徐々に灯っており、もう少し経つと綺麗な夜景を楽しめそうだ。
「それでは、もう少ししましたらお食事をお持ちしますので、それまでどうぞごゆっくり、お寛ぎくださいね。」
「わーい!ごはんだー!」
仲居さんは、はしゃぐシュピを見てくすりと笑い、頭を下げて退室した。
「…ふーっ。こんなに疲れたの、久しぶりだよ…。」
私はごろんと畳に寝転がる。くたくたでもう動けないかもしれない。
「ジュセって、いがいと体力ないよねー。私なんて今日をもう一周できそうだよー!」
シュピはその場でくるっと一回転して、まだまだ元気なそぶりを見せる。
「誰のせいだと…。でもまぁ、気持ちの良い疲れではあるかもね。」
「それってつまり、楽しかったってことだよねー。」
首をひねり、うんとうなずく。えへへと笑うシュピ。
「でも、もう1日終わっちゃったなぁ。あと2日しかないんだよね。ちょっと寂しいかも。」
「だめだよー、終わりのことかんがえちゃー。」
シュピは私の横に座って言う。
「今のことだけ考えてれば、いっぱい楽しめるよー!さびしい思いは、終わってからちょっとの間だけっ。それがいちばんだよー。それにー…。」
コンコン、とノックの音が聞こえる。
「今日はまだおわってないー!」
待ってましたといわんばかりに、シュピはドアに向かってダッシュした。