カミハルムイ駅に到着した私達。時刻はお昼前で、丁度いい時間だ。
ホームのベンチに腰かけて列車を待つ。
「あと少しで来るわね。」
博士が見送りに、着いてきてくれていた。
「わざわざすみません。こんな所まで。」
「いいのよ、今日はフリーだし。いつもは城に籠りっぱなしだから、気分転換にもなるわ。」
博士はそう言って伸びをする。
言動や仕草こそフランクではあるが、この人も色々と抱えているものがあるのだろう。
横顔を見ながら、そんな事を考えていた。
ふと、汽笛の音が鳴る。
「ジュセー、列車きたよー。」
シュピが立ち上がり、列車を見ようとホームの白線に並ぶ。
「それじゃ、行きますね。」
「うん、それじゃね。…何かあったら、いつでも頼って。」
「はい。多分、無いと思いますけど。…本当にありがとうございました。」
私は心からお礼を言うと、シュピの元へ向かった。
丁度列車がホームへ入ってきた所だった。
「まったねー!ありがとー!」
シュピは大声で博士に挨拶をする。博士はそれを見てにこやかに手を振っていた。
私も最後に頭を下げ、シュピと一緒に列車に乗り込んだ。
「本当に、あっという間だったね。」
私は車窓から桜を見ながら、ぽつりとつぶやく。
「うんー。でも、ほんとに楽しかったよー。ジュセ、本当にありがとうねー。」
「寂しい?」
「ちょっとだけー。でも、久しぶりの家も楽しみだしー。それに、また行けばいいしねー。」
「そうだね。」
桜はだんだんと姿を消し、列車は深い森の中へと入る。
それを見て、終わってしまったことを実感する。
「ジュセー。」
「ん?」
シュピがふいに私の顔を覗き込む。
「そのー…なんか変というかー。雰囲気かわったねー。」
「え、どういう意味…?」
「うまくいえないけどー。なんか、すっきりしたというかー。あ、あれに似てる!お屋敷で見た、へんな像ー。」
私は武家屋敷にあった、土着信仰の象徴である木彫り像を思い出した。
「あー。ホトケ様とかいう?」
「そうそう、それそれー!」
シュピはぽん と手を叩く。
「む…。私はあんなにふくよかじゃないし。」
「ごめんごめんー。」
シュピはくすくすと笑う。
「まーなんというかー…。」
ぱっと顔を引き締め、片手を私に差し出す。
「これからもよろしくねー!」
「よろしくね。騒がしいコンシェルジュさん。」
私はシュピの片手を受け止め、この生活の続行を誓った。
こうして私達の旅行は終わった。
帰ってから、思い出を要所要所抜き出して旅行記を書いたものの、本当は書ききれない程、色々な事があった。
一分一秒が、かけがえのない大切な時間だった。
やろうと思えば、すべてを書き出すことだって出来る。
しかし、これを書いている今も、私達の人生という旅は続いている。
思い出に完全に浸ってしまうのは、すべてが終わってからでも遅くない。
少し休んだら、また出発しようと思う。
そう遠くないゴールへ、早く着きすぎないようにゆっくりと歩みながら。