「ここは…。」
気が付くと、私は布団の中に居た。
「ジュセ!」「ジュセー!」
目を覚ました私を見て、お母さんとシュピが声をあげる。
あの嵐の森は、私の剣は、サイクロプスは一体どこへ行ってしまったのか。
「シュピ…。」
…そもそも何故シュピがここ居るんだ。
シュピは確かにあの時、奴の棍棒の餌食になったはずだ。
だが現に私の目の前に、いつも通りの姿・形で居る。
私は夢でも見ていたのだろうか?それともここは…。
「…何が何だか、もう…。」
頭が混乱し、再び意識を失いそうになる。
「ジュセ、しっかり!」
お母さんが私の体を支える。
「…説明するわ。といっても、私も正直よく分からないんだけど。」
やはり私はシュピを追って森に入っていったようだ。
お母さんは動くに動けず、家で私を待っていたが何時間経っても帰ってこない。
覚悟を決めて家を出ようとしたときドアを叩く音が聞こえ、開けてみると気絶した私を担いだシュピが居たそうだ。
「ごめんなさいー…。ジュセ、お母さん。わたしのせいでー…。」
シュピは俯きながら、涙声で話す。
「ジュセ、お母さんと実家に帰っちゃうんじゃないかってー…。わたし、捨てられちゃうんじゃないかってー…。どうしたらいいかわかんなくなっちゃって、あんなことを…。ごめんなさいー…。」
膝の上で握りしめた手に、涙が何滴も落ちる。
「…謝るのは私の方よ。抜け駆けするようなまねをしてごめんなさい。仲良くしてねって、言ったばかりなのにね。」
お母さんも涙こそ見せないが、声が苦しそうだった。
とにかくここは現実で、私もシュピも生きている。
それだけは、間違いないようだった。
「…それより、シュピ!体は!体は大丈夫なの!?」
安心したのもつかの間、私は一番重要な事を思い出す。
「…え?う、うんー。ジュセ、ちょっと重くて、いろいろ道に迷ったけど帰ってこれたよー。」
「そうじゃなくって!シュピの怪我だよ!」
この時は心配するあまり見落としていたが、あの距離を私を担いで歩いてくるなんて、未だに信じられない。
「けがー…?」
シュピは頭と手の絆創膏を剥がして見せる。確かにそこには何もなくなっていた。
「こんな時にふざけないでって!!森の中で、大きい魔物に殴られたでしょ!?」
私は思わず布団から身を乗り出して、シュピの衣服を剥ぎ取った。
無い。
シュピの体には、傷跡も打撲痕も何一つ見当たらなかった。
「ジュ、ジュセー…。」
突然の事に戸惑うシュピ。
「その辺にしときなさい、ジュセ。」
母に制され、冷静になり手を離す。
「ごめん…。」
「…ううんー。」
あれほどの衝撃を受けて、無傷でいられるはずがない。
納得がいかないまま、私は布団へと戻る。
「…ねぇシュピ、森の中で一体何があったの?」
「えーっと…。」
シュピは衣服を着直すと、目を閉じてあの時の事を思い出す。
「悲しい気持ちでたくさん走ってたら迷子になっちゃって、ずっとうろうろしててー…。もう帰れないのかなーって諦めかけてたら、ジュセの姿が見えたのー。」
シュピは続ける。
「声かけたんだけど、なんかいきなり眠くなっちゃって、気がついたらジュセが黒こげになって倒れてて、びっくりしてー。ジュセをかかえてむちゅうでずーーっと歩いてたら、家の明かりが見えたのー。」
シュピの閉じた目から、再び涙が溢れだす。
「ジュセ、しんじゃうかとおもったー…。こんなお別れ、するくらいなら、実家にかえってくれたほうがぜんぜんいいよー…!ほんと、ごめんなさいー…!」
「シュピ…。」
「……。」
お母さんは黙って、席を外す。
私は、ぎゅっとシュピの体を抱きしめた。
今日は本当に、色々な事がありすぎた。
未だに何が夢で現実なのか、分からない。
けれど私もシュピも、生きている。
今は素直に、その事を喜びたいと思う。