―ばしゃっ。
「ぶわっ!……へっくし!!」
「あー、ごめーん!」
何事か。
休日の朝。二度寝を満喫していた私は思わぬ災難…いや水難に見舞われた。
「な、な、何これ。」
飛び起きると、目に映ったのは水浸しの床。
雨漏りでもしたのだろうか。しかし昨日は満月の夜だったはずだ。雨など降っている筈がない。
…となると元凶は絞られてくる。
「…シュピ。これは一体?」
「あついときは水をまくといいらしいから、やってるんだけどー…。やっぱりじめじめするねー。」
バケツとひしゃくを持ったシュピは、にこやかに答えた。
「あ、当たり前でしょーっ!」
「はぁ…休みだから遅くまで寝かせてって言ったのに。結局、最悪な目覚めになっちゃったよ。」
私は床を拭きながらぼやく。
「だってー、ジュセにすずしくねてほしかったんだもんー。」
「心遣いは嬉しいけど、寝てたらそっとしといてよ。…それにしても、結構汚れてるなぁ。最近、掃除してる?」
床を拭いていた雑巾を裏返してみると、かなり黒ずんでいた。
その他にも注意深く周囲を見渡してみると、窓が土埃で曇っていたり、本棚に蜘蛛の巣が張っていたりする。
「むー、ちゃんとしてるもんー。」
シュピは少し膨れて言い返した。動揺が無い様子を見ると、さぼっている訳でも無いらしい。
「…まぁいいや。せっかくだし、今日は手伝ってあげる。」
「ほんとー?やったー!」
私は疲れた体に鞭打って、掃除をすることにした。
掃除というものは、どこまでやってもやりすぎだという事はない。
これは別に、プロ意識から来る言葉ではない。
どこで止めればいいか分からないのだ。私が綺麗だと思っても、他の誰かから見たら汚かったりする事もある。
相手の感覚を理解し、時間内に効率よく終わらせる…。
コンシェルジュの業務はそういった神経を使う物が多そうで、私にはとても務まりそうにない。
屋敷をてきぱきと掃除するシュピを思い出しながら、そんな事を考えていた。
「よし、こんなものでいいかな。」
埃や蜘蛛の巣を払い、床と窓を水拭きし、ごみを外に出し、お風呂を洗い、布団を干し……一応掃除は終了した。
「さすがジュセー!やるうー!」
シュピはひたすらキッチンを磨き上げながら、称賛する。
「ありがとう。…うーん。仕上げやるから、代わって。」
「はあいー。」
私は最後の箇所に手を付け、本当に掃除は終了した。
「ねぇシュピ。」
「んー?」
「ゆっくりでいいからさ、落ち着いて確実にやっていこう、ね?」
「うんー。」
シュピは頷いた。