こうして、ジュセは治療を諦め、終わりの時までシュピさんに寄り添う事を決意したのでした。
ジュセの強い決意とは裏腹に、旅行後からシュピさんの症状が悪化し始めました。
初めは転倒や物忘れなど、些細な事でした。
そのうち、得意であった家事も失敗が多く見られるようになり、まともに出来なくなってしまいました。
さらに幼くなっていた言動も、今度は発語自体が減っていき、簡単な意思表示しか出来なくなってしまいました。
ジュセは生活の質を下げまいと、これまでの討伐任務に加えて、シュピさんが出来なくなった事をサポートするようになりました。
それでもシュピさんの症状は悪化の一途を辿り、ジュセにも疲労が溜まっていきました。
しかし歩みを止める事はありませんでした。
ジュセは気づいたのでした。
自分が昔から望んでいたのは平穏な日常であり、その先にある未来、結果は二の次なのだと。
精一杯頑張るのは、"今"を守るためなのだと。
厳しい状況に置かれながらも、ジュセはかつてない幸福を感じていたのでした。
一時、私が介入し、二人の仲を引き裂こうとした事がありました。
もちろん、決して嫌がらせや妬みからやったのではありません、
隠居している状況や、ジュセの異様なシュピさんへの入れ込み具合から、何か良からぬ事が起こってしまいそうな予感がしたからです。
しかしあの夜に事情を聴き、私は身を引くことにしました。
シュピさんと生活するという選択は、悩みに悩みぬいた上にあったものだから。
あの子はもう、ふらふらしていた頃のジュセではなかったのです。
私が指図する余地は、ありませんでした。
今では二人にとって余計な事をしたと、本当に申し訳なく思っています。
でも一つだけ。
"約束"だけは守ってほしかった。
それだけは悔やんでも悔やみきれません。
こんな事になるなら、無理にでも連れ戻しておけばよかったと思う気持ちも、確かにあるのです。
二人の幸せな日常は、そう長くは続きませんでした。
ある日、シュピさんは高熱を出して床に臥してしまいます。
只ならぬ容態から、ジュセは"終わり"を予感しました。
覚悟はしていたものの、実際にその時を迎えてみると、とても平静を保っていられませんでした。
苦しむシュピさんを見るのに耐えられず、自らの手で楽にしてあげようと思った事もありました。
それでもなんとか踏み止まり、ただひたすら日常の再来を夢見て看病を続けました。
そして、そんな憔悴しきったジュセに最後の試練が訪れたのでした。