アナBARと書かれたドアがゆっくりと開いた。
「いらっしゃいませ」態度が一変して、アナライズは冷ややかに言った。「あら」
「どうして残念そうなんですか!」めろんぱんは鼻息を荒くした。「せっかく来たのに」
「お茶漬けでよろしいかしら?」
アナライズはにこりと笑って尋ねた。
「京都での帰宅をうながすサイン!」
めろんぱんは絶叫した。
「そういう説明的なツッコミがめんどくさいのよね」
はあ、とため息をしてアナライズは頭を掻いた。
「でもでもだって、そのきっかけを作ったのはアナさんじゃないですか。僕は楽しくお酒を飲みに来ただけなんですよ。ツッコミはよくしますけど、それは毎回アナさん発信ということを忘れてないですか。僕が悪いみたいに言わないでくださいよ」
めろんぱんは顔を真っ赤にしながら早口で言った。
「そういうところ」
アナライズは鹿爪らしい顔をした。
「刺さるわ。胸にグサッと!」
「500円でいいわ」
アナライズはてのひらを出して勘定を促す。
「まだ食べてないのに!」
「そうなの? 私はお腹いっぱいよ」
「まったく、僕も一応客なのに…ん?」
めろんぱんは気配を感じてドアの方向を見た。
「金を出せ!」
拳銃を持った覆面の男が来店した。
「いらっしゃいませ。狭い店ですが、ゆっくりして行ってください」
アナライズは満面の笑みを見せた。
「いや、ちょちょちょ、いらっしゃいませじゃあないでしょう。強盗ですよ!」
めろんぱんは慌てて言う。
「こんな店に強盗が入るわけないじゃないの」
「ごちゃごちゃうるせーぞ。さっさとこのバッグに金を詰めろ!」
強盗はアナライズに黒い革のバッグを放り投げて言った。
「え、本当に強盗なの?」
「早くしろ。妙なマネをするとこいつを撃つぞ」
めろんぱんは強盗に拳銃を突き付けられた。
「ひいい。アナさん早くお金を入れてくださいぃ」
涙声でめろんぱんはせがんだ。
「本当なの?」
アナライズは疑うように聞いた。
「この状況で何言ってるんですか、本当に強盗じゃあないですか! 早くしてくださいよ。死んじゃう!」
「さっさとしろ!」
強盗は声を荒げた。
「いや、そうじゃなくて、私が妙なマネをすると撃つっていうのは本当なのかなって思って」
人を喰ったような顔をしてアナライズは言った。
「まさか。ちょっとアナさん、それだけは勘弁してくださいよ!」
「その拳銃がただの脅し道具じゃあなくて、この強盗にはめろんぱんを撃つ度胸があるのかしら」
「お前んとこの客だろ!」
目を泳がせて強盗は言った。
「あなたが言ったことが本当かどうか私が試してあげるわ」アナライズは受話器を取った。「妙なマネって具体的に言うとどういうことかしら?」
「おい、よせ。出来れば俺も穏便に済ませたい」
強盗の手が明らかに震えだした。
「ちょっと、引き金は引かないでくださいよ!」
めろんぱんの顔からはすでに血の気が引いている。
「そんなことだろうと思ってね」アナライズは一旦受話器を置いた。「ひとつ提案があるの」
続く。