武術とは古来より伝わる戦闘術。
戦うことを目的とせず戦いを止めるためあるいは人の身を体を張って守ることを主体とする。
近来ではあまり使われなくなり、武術は姿を消した。
だが、その概念を継承しつつ発展させ、近来蘇らせた仙人がいた。
これは緑(碧)の師匠と『僕』青(碧)い魚が、生涯をかけた乾燥記である。
第一訓 テメェラそれでも... ×
第 壱 話 出会い
俺はいつものように着心地の悪い袴姿で、カジノで遊び呆けて手に入れた魔法の絨毯でいつもの場所へ向かう。
なんの変哲も無い武道場へ。
いつもと変わらない武道場へ通う人々。
いつもと変わらない武道場の空気。
なにひとつ変わらないいつもの武道場だった。
袴から道着に着替え、いつものように武術の稽古が始まる。
いつものように何気なく、教わられたことをやる。
つまらないことは時間が過ぎるのが遅く感じる。
カジノで遊び呆けてた頃のことを思い出し、過ぎ行く時間をただただ待つのみだった。
なぜ今俺はこんなことをしているんだ。
周囲の奴らの目は燃え滾っていたが、俺は死んだ魚のような目をしていた。
昼になった。
その瞬間だけが俺の目は、獲物を食らう突撃魚のように煌めく。
今回は武道場の料理だけではなく、誰かからの差し入れでまんじゅうが提供された。
差し入れは初めてだった。
いつもと違うことに戸惑いはしたが、俺は腹が減っていて即座にまんじゅうに手をつけて口に入れる。
見た目はカビ団子みたいだが、食ってみるとウメェ。そんなことを思いながらあっという間に完食した。
そのとき、またいつもと違うものが目に入った。
初めて着たようなぶかぶかな白い道着なんだか絹のローブをカラーリングしただけの道着もどきに、中央から大幅にズレている黒帯の結び目。
服装からして素人だが、エライヒゲ面に腕組み。
耳と鼻と態度だけはデカイようだが、俺の身長の半分にも満たないくらい小さい。
微動だにせずずっとこちらを見ている。
目が気になる。
そしてまた稽古の時間が始まるとその緑のハゲは何も言わずに去っていった。
あの視線を思い出すと集中力が切れてミスを連発してしまった。
今度出てきたら丸い頭をおもいっきりブン殴ってやりてぇ。
とイライラしながら1日が終わった。
つづく