2014-05-12 04:41:06.0 2017-01-12 05:49:36.0テーマ:その他
ゆうはん。(仮)13 「姫イド……、ロングコートの男性に向かい風で叫んでいただきたいですね。では、ご一緒に~、せーのッ……」 「「――おのれ、ひめいどぉぉッ!!」」 「……なに、コレ……?」
第2章 その4
誰だろう? どこかで声がする。
「おい……ひめ……、いい……か? ……ゆ……しゃ……は、い…………いる……ッ!」
だがやはり、届かない。もやが掛かって、前にも進めない。
「――ッ! あたし、寝ちゃってたっ?」
「ああ、おはよう、ひめさま」
姫は自分のベッドで目を覚ました。すぐそばには黒縁眼鏡の少年が本を読んでいた。
「このまま起きなかったらどうしようかと思った」
少年ははにかんだ。経験値多めにあげちゃいたくなるくらいだった、なんか悔しいけど。
「癒しの魔法を掛けておいたよ」
……ああ、どおりでスッキリするはずだ。疲れも無くなっている。だけど……、
「でも、うなされてたよ。大丈夫? 怖い夢でも見たの?」
ひめ は おもった!
……怖い、とは、どこか違う。なんだろう、この気持ち。
「悪いけど、やっぱりあたし、まだ疲れてるみたい。用が無いなら、はやく出てって」
「そっか。ゴメンね」
少年は分厚い本を閉じ、席を立った。壁に掛けていた黒い不思議な杖と、真紅のマントを手に取る、と、
「…………あ、あのっ、黒ぶちメガネッ!」
「ん? なんだい、ひめさま」
「お父様とは、もう、お話しした?」
……自分で出て行けと言ったのに、何言ってんだろ、あたし……。
「うん。国王陛下にご挨拶なら、一番に済ませたよ」
「お父様はなんて?」
「あー……、国を挙げて、魔族と戦うしかない、と」
「……そぉ」
「ここのところ、魔物たちの動きが急に活発になってさ。僕が見て来た遠くの国なんか、だいぶ苦戦していたよ」
黒縁眼鏡の少年は窓枠に寄り、ちらりと外を見た。
「今まで各地で好き勝手に暴れていただけの魔物が、急に組織化を始めたんだ」
静かな町並みがそこにはあった。
「やはり、本格的に侵略を開始したのかもしれない。そう、勇者亡き後の今だから――」
「黒ぶちメガネッ!」
姫が叫んだ。
今までのそれとはまったく違う、悲痛の声だ。
「……勇者様は死んでなんかない……ッ!」
「ひめさま……。きみは、まだ、そんなことを言うの……?」
「黙って! あんたも一緒ッ! そんなウソばかり言うッ!」
「僕は見たんだッ!」
少年も叫んだ。
「勇者が、魔王によって、消される瞬間を」
「そんなの……ウソだもん……」
涙は出て来なかった。不思議だ。ただ、ただ胸が、苦しい。
少年は語り出す。まるで朗読劇のように、感情が宙に舞い出した。
「僕は、あのとき討伐隊に参加していたんだ。何人もの隊員が傷つき倒れ、最深部へ到達するころには、わずかな人数しかいなかった。そこで勇者は、激戦を繰り広げていた。ヒト型ではなく、巨大な魔獣に変化した魔王とね。僕らは、まるで戦力にならなかった。道中で隊がほぼ全滅するくらいだからね。勇者は精霊の加護があるから、ひとりでもあんなに戦えたんだ。でも、追い詰められた魔王だったモノが、最後に放った一撃……、その威力は凄まじかった。あれでは、さすがに勇者だって……。あそこで、魔力の残っていた僕だけが、辛うじて脱出できたんだよ」
「…………」
ひめは ただジッと こらえている!
胸のもやは少しも晴れない。濃さを増していくばかりだった。
ややあって、少年が問い掛ける。
「その、なんて言うか、こう……自分だけ生き延びて――、とか、言わないの?」
どうせなら、責めて欲しかった。
「魔法使いは、常に冷静じゃなきゃいけないんでしょ。……黒ぶちメガネ、昔あんたが自分でよく言ってたじゃん……」
「ああ、そうだね。子供のころ、読んだ書物にあったな。懐かしいなあ」
「黒ぶちメガネは、間違ってないよ。……うん、すごいよ」
「そうかな?」
「目の前で仲間が倒れるのを見て、自分だって傷ついて、それでもみんなと必死に戦ったんだもん。誰も、あんたを責められないよ。国とか姫とか関係ない。同じ人間として、誇りに思うよ?」
「そう言ってもらえると、僕もうれしい」
「うん……」
「でも、安心して、ひめさま。僕だってあれからまた修行をしたんだよ。世界中を旅して、いっぱい呪文を覚えて、強くなったんだ。もう、負けないよ。ひめさまは、僕が守るから……!」
「……ありがと」
「ひめさまの生誕祭、もうすぐだね! それまでは僕、どこにも行かないからさ」
「うんッ!」
だが、しかし!
ひめ は おもった!
――でもね、あたしは、信じない……!
この目で、自分で、全てを確かめるまでは……ッ!
おや?
廊下にひとり、
人影が……。
「やれやれ。……姫様、あそこは、――長いよッ! Aボタン連打だよッ! スキップ機能つけろよぉッ! って、全力でツッコむところでしょうが……、ったく、小娘が」
つづく。
※この物語はフィクションです。