2023-11-23 06:08:55.0 2024-01-22 06:59:08.0テーマ:その他
ゆうはん。81「なぁ、寿命と引き換えってどれくらいなんだ?」「1回召喚に10年ほど減ります」「5回も使ったらもうアウトじゃねッ?」「太くて短い私の人生」「笑えねーよッ?」【まおぼく】
「勇者さま、着きましたよ」
「な、なんだこの村は……ッ!」
第5章 その11
目下、魔王討伐を志す俺たちだが、如何せん戦力が足りない。
そんな中、なんと重要な情報を手に入れた俺たち。
【どんな邪悪なチカラも防ぐ、聖なる衣というものがあるらしい!】
てなワケで現在、そいつを探しに各地をうろついているのだった。
そして俺たちはとある小さな村に立ち寄ったのだ。
「フツーだ! みんな普通に平凡な暮らしをしている! 露店商の荷台には取れたてのお野菜が瑞々しく並び、誰もが気持ちよく品々のやり取りをしている! 道行く人々は笑顔で挨拶を交わし、大人も子供もおじーさんも、みんな仲良く暮らしているッ!」
「とても良いことじゃないですか、勇者さま」
仲間である魔術士少女はそう言うが。
いやいやいやいや、
「魔王の恐怖はどこいったッ?」
「きっとここの人々はまだ魔王の存在にすら気付いていないのですよ」
そういやそんなこと、キミの兄である戦士さんが言ってたっけな。――だが、やがて世界は魔王に滅ぼされてしまうだろう――、とかってな、無駄に良い声で。
まぁ、知らぬ間に滅ぼされたらたまったもんじゃないよな。
寝ている間に“大陸間弾道型魔法”でも飛んできて気付いたらいつの間にかあの世なんて勘弁だぜ?
それにしても。
風は心地よく陽射しは高く、のどかな風景と人々の笑い声と、一杯の熱いお茶から立ちあがる湯気がほのかな香りを運んで来て、
「ああ……ッ!」
「どうしました、勇者さま?」
「良いな~あ、こんな村で、俺も暮らしてたいな~あ」
俺は高い青空を見上げて呟いていた。
このお茶屋も良い店だし、妹もつれてきてやりたいなぁ。
と、
「ふふっ」
笑う魔術士ちゃん。
「な、なんだよ、そんなに可笑しかったか?」
「いいじゃないですか。暮らしましょう勇者さま。魔王を倒し、世界に光を取り戻したあとに」
「ああ。そうだな」
「そのときには、私も……」
と、魔術士少女が何かを言いかけた時、
「うわーッ! 誰かーッ!」
つんざく悲鳴。
村はずれ向こうの方からだ。
見合わせる俺たち。
「勇者さまっ!」
「よし行ってみようッ!」
なんと!
まものが あらわれ
むらびとに おそいかかろうと している!
「出でよ、さつりくとはかいのきょうせん――」
「いや、待て、ステイ。“じゅみょうだいじに”だからねッ?」
秒で出そうとするなし。俺は魔術士ちゃんの召喚詠唱を制した。このまま放っとくとゴリっゴリに寿命減ってくからな。それはこのコのいのちのきけんがあぶない。
ここは俺がやるしかないッ――、
「てぇやッ!」
ゆうしゃの こうげき!
まものに ダメージ!
「グオオオォ……ッ!」
俺は斬るというよりも思い切り剣を叩きつけた!
背後に一撃を喰らい一瞬怯んだ熊型の魔獣。しかしすぐに振り返り向き直った。
どうやら俺を敵として認めたらしい。不気味な唸り声で威嚇している。
よーし、来るなら来いってもんだ!
「そこの方ぁ! ここは俺らに任せて、下がっててください!」
俺は向こうでへたり込む村人に向け叫んだ。
「勇者さま、ここは私が」
すっと横から魔術士少女が飛び出し、抱えるようにして村人をその場から引き離す。
まものの こうげき!
ミス!
ゆうしゃは ひらりと かわした!
「うをぉッ、危なッ!」
覆いかぶさるような魔獣の突進攻撃を紙一重で避けた俺。奴は勢い余って地面に這いつくばった。
もしも真面に受けていたら、その巨体の一撃は相当なものだったろう。しかし、魔王の島にいた“あの魔獣”よりは、
――遅いッ!
「これでお前も経験値だぁッ!」
ゆうしゃの こうげき!
なんと!
まものを やっつけた!
「グオオオォ……ッ!」
奴が起き上がる前にその後頭部に渾身の一撃を与えた俺。
黒い粒子をまき散らしながら魔獣は消えていった。
すぐに魔術士少女がそばに来た。
「やりましたね勇者さま」
「あなたが、勇者様……?」
良かった。
無事に村人さんを守れたことに安堵した俺であった。
つづく!
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。
第一回はコチラから↓
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/183827313689/view/1989548/