2023-12-11 00:08:34.0 テーマ:その他
ゆうはん。88「だいたい塔の最上階から飛び降りても平気って変よね。フツー、HP1で瀕死になるよね」「それは高層ビルから飛び降りた某悪魔さんだけだ!」【まおぼく】
第5章 その18
最低さいてい最ッ低! もう顔も見たくない。なんなのアイツ!
迷宮の奥へとひたすら突き進むあたし。
これまで来た通路を戻っているのか、正しい順路を進んでいるのか、そんなこと、もうどうでも良かった。とにかくあのヒトから離れたかった。
あんな奴を認めた自分にも腹立たしい。
何が、“そんなあたしがピンチになったときに彼は現れた。これってたぶん、運命なんだ” だよ!
ひとりで盛り上がっちゃって、バカぢゃん、あたし。
なのに、足手まとい? 勇者であるあたしをッ? あたしの強さも知らないくせに!
あたしはこれまでにいくつも村とか救って来たんだよ! たくさん魔物を倒したし、悪いやつらも懲らしめて来たしね。
そりゃぁ、ちょっと知識にはうといから、たまには油断することもあったけどさぁ。
って、ああ、そうか――、
よくよく考えてみたら、あたし、アイツに助けられてんだよね。しかも二回も。そのせいでアイツ一回死んだンだし。それにあの影みたいな魔物にだって、あたしは全然気付かなかったし。アイツがいなかったら、いま頃とっくに……、あたし、やばっ。
いまひとりになって落ち着いたら、急に恥ずかしくなってきた。……あ、なんだ、
「最低なのは、あたしのほうじゃん……」
かちッ!
「ん? 何のおと――って、まさかこの展開は?」
と、
ぴしぴしぴしぴしぃ……、がらがらがらがら……ッ!
なんと!
わなが はつどう!
とつぜん ゆかが ぬけだした!
「えっえっえっ……? ゆ、床がぁッ、く、崩れる~ぅ?」
いきなり床にヒビが入ったかと思うと、足元がガラガラと崩れ落ちていく!
「ちょ~ぉッ! またなのッ? もぉ嫌~ぁッ!」
後方から崩れ落ちていく地面に追いつかれないように通路をとにかく必死でダッシュ!
止まるなッ、走り続けろッ、駆け抜けろッ、でないと、
「落ちるッ落ちるッ、落ちちゃうってッ! ひぃいいいぃ……ッ!」
――見れば、向こうに広間が! この崩れる通路もうすぐ終わりじゃん。やった! 今度は助かりそうだ――、
「あ……ッ!」
通路の出口、広間に続くあと一歩のところで、あたしは……転んだ!
――落ちるッ!
……あ、ダメだ、これ来るわ、たぶん走馬灯ってやつ、でも、最期に過るほどの思い出なんて、あたしにはこれっぽっちもなかったな、そりゃそうか、だってあたしは、どこの誰だかも分からずに、これまで生きてきたんだっけ、それなら、しょーがないよね、あたしはひとりがお似合いか、あはは――、
がしッ!
「だから俺に関わるなって言ってンのに、しょーがないやつだな、キミは」
奈落へ落ちる寸前のあたしの手を、あのヒトはしっかりと掴んでいた。
「アンタ、どーして……ぇ?」
いいから黙ってろ、と言って、彼はあたしを引き上げてくれた。
ややあって。
「うそぉ……底が見えないよ……!」
崩れた穴の先は真っ暗だ。
あたしは怖くなって下を見るのを止めた。もしも、あと一秒でも遅れていたら……?
「あ、あの、その……、ありがと。それと、助けてくれたのに、酷いこと言っちゃって、ごめんなさい」
あたしに背を向けたまま、彼は崩れた通路の跡をジッと眺めている。
「いや、いいんだ。わかってる。そうだよな、おかしいよな。俺も忘れてたよ。今まで誰にも指摘されなかったから」
今にも消えてしまいそうな彼の背中。
でもあたしは、からからに乾いた喉だけど、ちゃんと伝えなくちゃ。
「あ、アンタが何者だろうと、この際もういいの。あたしを助けてくれたのは事実だし。でも、なんて言うか、そう……ちゃんとお礼がしたいんだ。ここを出た後にさ」
あたしは精一杯、言葉をふり絞る、
「だから、それまででいいから、あたしと一緒に行ってくれない?」
彼はまだ背を向けたまま。
でもこれでダメだったとしても、あたしはもう後悔はしない。
彼の強さをほんの少し分けてもらえた気がしたから。
ややあって、
「まぁ、放っておいたら、またなんか仕出かしそうだしな、キミは」
「え……」
「わかったよ、一緒に行くか?」
「ホントッ? うれしいッ!」
あたしは思わず、彼の背に抱きつい、
どんッ!
「うわーーーーーーーー…………、
ひゅ~~~~~~~~ッ!
「……うっわ、やっばぁ!」
そうして彼は、奈落へと落ちてしまいましたとさ。
……あたし、彼を突き落としちゃった……、てへっ♪
つづく!
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。
第一回はコチラから↓
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/183827313689/view/1989548/