2024-01-06 06:27:31.0 2024-01-10 20:54:02.0テーマ:その他
ゆうはん。95「えーっと、誰だっけ……あ、同盟剣士さんの名前ね。確かに叫びたくなる名前よね」「だよなッ!」【まおぼく】
第5章 その23
――それまで俺は妹と平凡に暮らしてきた。
ある日、隕石に打たれて目覚めると、何故か俺は勇者になっていた。
誰もが俺を勇者として扱い、皆が魔王を倒せと急かした。
最初の魔王は俺の目覚めた城のすぐ近くにいた。海を挟んだ目の前の小島に城を構え、こちらを嘲笑っているかのようだった。俺は経験を積み、やがてそこに乗り込み、初めての魔王を倒した。
しかし、世界は何も変わらなかった。
人々は何事もなかったように魔王を倒せと再び俺に言ってくる。
次の魔王は閉ざされた雪山の大地にいた。神殿の中で邪悪な祈りを捧げる魔王、苦戦の末、俺はそれも倒した。
だけど、やはり世界は何も変わらない。また誰もが魔王を倒せと言う。
三番目の魔王は岩山に囲まれた絶壁の孤島にいた。……ああ、あそこへ行くのは大変だったな――、
「ちょ、ちょっと待ってってば!」
それまで黙って聴いていたけど、急に気になったあたしは勇者の彼に近寄った。
「それだけの戦いを、ずっとひとりで? 一緒に戦ってくれる仲間は誰もいなかったの?」
「最初はいたさ、何人もね」彼は困ったように微笑む。「だけど、みんな俺を守る為に死んでいったんだ。俺自身だって何度も死んだ。その度に何故か俺だけが蘇り、うしなった仲間はもう二度と戻って来なかった。俺にはそれが耐えられなかった。だから俺はひとりで戦い続けた。どうせ俺だけは死んでも平気だから。やられてはまた挑み、やられてはまた挑む。そうやって少しずつ俺は強くなった。強くなるしかなかったんだ」
子供みたいに、くしゃって笑いながら淡々と、勇者の彼。ちょっとやめてよ、こっちが泣いちゃいそうだよ。
「えっと、それで、どこまで話したっけな……、ああ、三番目の魔王を倒したあとだったか。そこからがまた大変だったな」
そしてまた彼が続ける――、
「大魔王ゴルゴンゾーラは強敵だった……」
「……ん?」
「――辿り着いたイェトスト地方の港町ババリアブルーでは魔王軍の配下エポワス将軍が攻めて来たんだがすでに奴はなんとリコッタ姫を人質に捕らえ俺にエメンタール城のシャウルス王から預かった聖剣フォンティーナを姫との交換に差し出せと言ってきたので俺は一時的に剣士ボンゴレ魔法使いマリボー僧侶クロミエと同盟を組み作戦ラミ・デュ・シャンベルタンを発動し奴の居城ライオルの砦に忍び込むことに成功するがしかしやはりそれは罠でありすでに大魔王ゴルゴンゾーラのチカラを取り込み最強魔法を解き放とうとする奴が不気味に笑う、はっはっは喰らうがいい、海鮮魔法ペスカトーレ! と、絶体絶命そのときだ! 俺を包む謎の光の正体はなんと、封印されし古の女王! ああ、そなたは……マルゲリータ! そこで俺は……」
「うをおおおーぃッ! 長いよぉッ! 長いしわりとどーでもよくねッ?」
じしょう・ゆうしゃの
さけびが こだまする!
いや、それでも結構我慢して聞いてたほうだよ? てか、なにその全体的に美味しそうな物語は! ゴルゴンゾーラって! 確かに大魔王っぽい名前だけども! なんで急に具体的になってんのッ? ……あと、どーでもいいけど今度は【自称勇者】なのね、あたしって。
「いやいや、そのあとがまた大変だったんだよ、――危ない! 下がるんだ、ボンゴレッ!」
「もーぉいいからーぁッ!」
あたしは激しくツッコんだ。
「結局どーなったの? 大魔王のゴルさん、倒したの?」
「ああ、倒したよ。倒して倒して、倒しまくった。そのあとは、もうよく覚えちゃいない。とにかく俺は魔王を倒し続けた。現れては倒し、現れては倒し、その繰り返しだった――」
と、勇者の彼は締めくくった。
ってかなにが、もうよく覚えちゃいない、だよ。恐ろしい記憶力だよッ!
呆れるあたし。もはやぐったりだ。
「――なるほどな。よくぞ、話してくれた。若者よ、辛い旅路であったな」
あ、ドラゴン起きてた。反応無いから寝落ちしちゃったんじゃないかと思ったよ、そもそも石化してるし。
「信じてくれるのか? 俺の話を」
彼は驚いて巨竜を見上げて言った。
するとドラゴンは、
「何を言うか。それほどの苦難の末、このワシに会いに来たのであろ? それ相当の覚悟がなければ叶わぬことであったろう。よくぞ今までひとりで耐えた。辛かったな、勇者の若者よ」
――ひしッ!
なんと!
ゆうしゃは ドラゴンに
だきついた!
「泣いてるッ? ドラゴンにしがみ付いて泣いてるよ、このヒトッ!」
巨竜の石像を抱き締め、ひとり号泣を始めた彼。
「……お、俺は、ずっとひとりで……、だ、誰にも分かって、もらえなくて、うっうっうっ、ぅえええぇん――ッ!」
うずくまり嗚咽を上げる勇者だった……。
つづく!
※この物語はフィクションです。