第5章 その26
「どうした、もう終わりか?」
鈍色の仮面を着けた大男が不敵に笑っていた。
対する勇者の彼は片膝立ちだったけど、
「……そういえば今日はあのチビで生意気そうな、あんたの主様は来てないのかい?」
なんとか起き上がれたようだ。
「ふん。我が主はお忙しいのだ。貴様のような雑魚の相手をしている場合ではない」
「お。チビで生意気は否定しなかったな。今度会ったら言ってやろぉっと」
なんて悠長な言葉を返していたが、彼が押されているのは明らかだった。
「ふん。失敗作にしては良くやったな。だが、ここまでだ」
仮面の大男が振りかぶって勇者に襲い掛かる――と、
「ちょーっと! お邪魔するよっ!」
ばばーん!
あたし、参ッ上★
「なんだ……貴様?」
ふふふん、あっけにとられる仮面の大男だよね。
「こっからはあたしのステージ――もとい、あたしが相手だよ? へいへーい覚悟しなさ~い」
あたしは剣を構えて前に出た。
「ダメだ。キミは下がってろ……っ!」
手負いの勇者があたしを制してくるけど、
「もぉ、アンタまだあたしのこと足手まといとか思ってるの?」
「いや、そんなんじゃない。……だけど、あいつは俺の敵なんだ。キミには関係ない」
「何言ってんのさ。そんなにふらふらしてぇ。また死んじゃったらどぉするの?」
「でも、キミを危険な目に合わせるワケにはいかない……!」
そう言う彼にあたしは素早く小声で伝える。
「――ドラゴンが、あんたを元の世界へ返すって」
「……ッ!」
驚いた顔の彼をあたしは急かす。
「早く行って。ここはあたしがなんとかするから」
「すまない……すぐに戻る!」
彼は駆け出しドラゴンのもとへと走って行った。
大男は嘲笑うように、
「勇者のくせに仲間を置いて逃げ出すとはな」
「ばーか、そんなんじゃないよーだ!」
あたしは仮面の大男と対峙した。
「何故、我の邪魔をする、小娘よ?」
「アンタが彼の敵だからだよ」
「小娘よ、命が惜しくないのか?」
ヤツのその言葉であたしは瞬間沸騰!
「命なんて……」 あたしはグッと剣にチカラを込めて 「最初っからとっくに無いじゃないのさーッ!」
あたしは大男に斬りかかった。
しょうじょのこうげき!
しかし!
かめんのおとこは
ダメージを うけない!
「愚か者めがッ!」
大男があたしの剣を軽々と受け止めた。と同時に杖があたしの頭上に振り降ろされる。あたしは身をひねってなんとかそれをかわした。――ふぅ、ぎりぎりだったじゃん、やばぁ。――と、
――ごきゅッ!
「ぐぅぁ……ッ!」
大男の回し蹴りを脇腹に喰らってあたしは地面に叩きつけられた。
「ああ……ぁッ!」
無様に地面を転げまわるあたし。……痛い、痛いよぉ。これでも全部が幻だって言うの? やっぱ嘘でしょ、そんなの有り得ないっしょ。ちょー痛いんですケド……ッ!
「小娘よ、いま楽にしてやる」
お腹を抱えてうずくまるあたしに大男の影が迫った。
――あたし、ここまでなのかなぁ。
かっこつけて飛び出したって、何にも役に立てないじゃん。……ごめんね、あたしの記憶を持っていた元の誰かさん。でもね、このまま負けるのは、もっと嫌だから……、
「消えてしまえ小娘ぇッ!」
大男の剣先があたしの胸に突き刺さる寸前――、
――斬ッ!
「ぐ……うをおおおおお……ッ!」
しょうじょの はんげき!
なんと!
しょうじょは おおおとこの
うでを きりとばした!
「ふぃ~……、あー、痛かったぁ」
そしてお腹を抱えながらなんとか起き上がるあたし。脂汗で顔面ぐっちょりだよ、もぉ。
あ、でもダメだ。これたぶん骨折れてるレベルじゃん。シンプルにすごく痛い。
「おのれ小娘ぇ……よくもぉ……ッ!」
今度は大男が地面に伏して呻いている。
お互いに満身創痍といった感じ。
あたしはゆっくりと近づいて、
「ねぇ、アンタも幻なの? それとも実体があるの?」
「…………」
何も答えない大男。仮面の下でどんな表情をしているのか分からないけど、
「でも痛いでしょ? どっちにしたってさ、その痛みは本物だよね」
そうだ。それだけで十分だ。痛みは生きている証なんだ。
ならば、まだ――あたしは生きていける。
「あ……っ」
眩暈がして足元がふらつき、あたしは崩れ落ち――、
「おい、大丈夫か?」
すぐそばに勇者の顔。あたしは彼の腕に抱き止められていた。
「あたし……頑張ったよ……えらい?」
「ああ、すごいよ、キミは」
「えへへ……やった……」
「無茶するよな、まったく」
あたしは勇者に支えられて巨竜の石像のもとへと戻る。
彼の温もりだって、あたしにとっては本物なんだ。
つづく!
※この物語はフィクションです。