第5章 その28
「ドラゴンがね、教えてくれたんだ。この大陸は、仮想大陸なんだって。
鈍色の仮面を着けた、檻の管理者と呼ばれる奴らが支配する、そんな大陸。ね、信じられる?
でね、ここでは勇者が魔王を倒すたびに、大陸が書き換えられて、新たな魔王が生み出されるの。そうやって永遠の時が繰り返されているんだって。
だから、勇者は例え死んだとしても、何度でも生き返ることが出来るんだね。ただ、魔王を倒すためだけに創られた悲しい存在、それがここでの勇者だよ。
でもね、奴らとってたったひとつの誤算があったの。
それが今の勇者の身体に宿っている魂が、外の大陸で生きていた別のヒトの意識体だということ。
そのことに奴らはまだ気が付いていないんだって。
だから今、真実を持って、この大陸から抜け出さなくちゃならない。
でもね、ここから出られるのは、ひとりだけなんだって。
いまのドラゴンのチカラではそれが精一杯らしいんだ。申し訳ないって言われたけど、ぜんぜんそんなことないのに。
あたし?
あたしはね、ただのマボロシ。
ていうか、この大陸にいるほとんどの人間は、それぞれの役割のために集められた過去の魂。王様役なら王様だった魂が、店員役なら商人の魂が、そんなふうに、ね。
だから、あたしには過去の記憶がなかったんだ。
気付いたときには、自分を勇者だと思い込んで冒険してた。
でも、もしかしたら、あたしはアンタと出会う五分前くらいに創られたのかもしれないね。アンタを茶化すために創られた偽勇者って役でね。……ちょっとぉ、せめて笑ってよ。
でね、あたし思ったんだけどさ。
ここで、アンタの代わりに勇者やろうかなって。
だってさ、アンタの意識がいなくなったあと、その勇者の身体はただの抜け殻になっちゃうんだって。元々の、“この大陸本来の勇者” に戻って、再び魔王を倒すためだけの悲しい存在になっちゃうんだよ。打ち上げられた魚のような目になってさ。
だからさ、あたしが、なるよ、ここの勇者に。
えへへ、……ダメ、かな? それくらい、やってくれるってドラゴン言ってたもん。
奴らの目だって誤魔化せるんじゃない?
……え?
あたしがそんなこと背負わなくても……?
不死となって永劫の檻に閉じ込められるのと同じ……?
うん……、むづかしいことは、よくわかんないけどさ。
それにさ、ほら、あたしって元々ただの幻でしょ。
それに、あたし、ずっと本当の勇者になりたかったし。
うん。わかってる。大丈夫。
何度だって、倒して倒して、倒しまくってやるよ、魔王なんてさ。
あ、そうそう! あたし思ったんだ。
そー言えば、ここが仮想大陸だとして、外に出られるってことは、反対に、外の大陸からここへ来ることは出来るのかな? って。
そしたらドラゴンがね、それも可能だって。
ここは外からはどういうふうに見えてるのって聞いたら、ここはひとつの大きな大陸として、海に浮かんでるんだって。常人には決して見破られることはないらしいけど。奴らの幻術を打ち破るほど強力なチカラを持った者がいればあるいは、だってさ。
だから、もしかしたら迷い込んじゃったヒトもいたのかもしれないよね。
……ちょっと話がそれちゃったけど、さ。
だからさ。
だから、いつか、迎えに来てよね。
……。
……もぉ、だから泣くんじゃないってば。勇者だろ、アンタ!
あたしが、……泣けないじゃんかよぉ、……もぉ、ばかぁ!
……。
……ホントはさ、イヤだったら、やめちゃってもいいんだよ?
だって、アンタずっとひとりで今まで頑張って来たじゃん。もう十分だよ?
……。
そっか、妹さん探すんだもんね。
きっと、アンタのこと待ってるよ。早く見つけてあげなきゃね。
――ッ!
ちょっとぉ、いきなりあたしの顔に何貼ってんのさ?
え? なんで絆創膏ッ? はぁ、アンタとおそろい? ナニソレ変なのー! ふふふ、でも、ありがと。
大丈夫、あたしたちなら、出来るよ。
だってさ……、
アンタはあたしの勇者で、
あたしはアンタの勇者なんだからね!
それじゃ――、またね!」
第5章 完。
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。
第一回はコチラから↓
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/183827313689/view/1989548/
……え、なにこの剣、あたしにくれんの? でも、これって、アンタの剣じゃん。いいの?
「聖剣フォンティーナさ」
それホントにあったんだッ?