...霧が立ち込める、どこか
その霧に溶け込むように、馴染むように
小さな掲示板と、そのそばに座る一人の吟遊詩人
「おや...初めまして。それとも、私の知らない何処かで会いましたかね?」
「なんにせよ、ここは未来の道標、『星覧掲示板』。私はその番人」
「...なんて大層なことを言っても、この掲示板は確実な未来は教えてくれません。ただ、未来起こりうる選択肢の一部を見せてくれるだけ」
「未来視だなんて眉唾...おっと、私に用がおありで?」
「とはいえ、私もごく普通の吟遊詩人。足も動かずここから発てず、停滞の語り部で...」
「...」
「成程、訳知り...姫様の知り合いの方でございましたか」
「私はギルド『星の集い』創設メンバーの一人、吟遊詩人...エアと申します」
「りんどう君に教えてもらいでもしましたか...?それならば、彼が僕を伝えたということは、よほど信用できる方のようだ」
「そうでなくとも、きっと貴方がここに来たのは、星の巡りというやつなのでしょう」
「であれば、私は語りましょう。これまでの、星の巡りのお話を」
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「昔々の、そのまた昔」
「私たちのような星の粒をかき集め、一つの未来を想い描いた、天地雷鳴士の、エルフの男がおりました」
「彼は弟子を作り、冒険者として活動し」
「とある日、その未来に『双子星』なる物が必要だと、ぽつりと言って」
「番を見つけ、所帯を持ち、」
「その後、双子のエルフが生まれました」
「当時、吟遊詩人であり星占術師でもあった私は、その二人の行く末に、えもいえぬ...混沌たる美しさと、波乱の定めを読み解きました」
「以来私たちは、この双子のエルフを守るための存在として、ギルド『星の集い』を設立しました」
「しかし...この波乱の双子が生まれて、1年と27日が経った、午前の5時。雷の鳴りやまぬその日に」
「子も生まれて間もなかったが故、資金目当てに身の程に合わぬ依頼を、私たちにも内緒で、こっそり受けた二人は」
「荷物に我が子の片割れが紛れているとも気が付かず」
「馬車で任務に向かう途中、雨で崩れた地面と、強力な魔物に巻き込まれ」
「そこで命を落としました」
「結局のところは、私たちは彼の思い描いた未来すらも解らぬまま」
「双子の未来は、ここで大きく分かれました」
「黒い星、波乱の星、希望を抱いた星、純なる悪意の星...鴉の星の元に生まれた幼子は、土砂の中静かに生き延び、新たな星の巡りに拾われて」
「白い星、期待の星、思いを抱いた星、輝き続けなければならない...正義の星の元に生まれた幼子は、この先の未来を知りもしないまま、『主人公』として魅入られ」
「こうして生まれた物語、目的も、行き場も解らぬ物語」
「その、前日譚でございました」
「さて、場面は移り変わり...ここからは、つい最近のお話でございます」
吟遊詩人は、手に持つリュートを、静かにならした
辺りの霧は、濃くなっていく
慣れ親しんだ、好きな音楽でも口づさむように
懐かしそうに目を細め、再び口を開いた
...後編へ続く