「どうしても作れない武器があるんだ…」
納得がいかない、という顔でフレンドのAはそう呟いた。
Aは、とにかく生産の好きなゲーマーで、メインストーリーやレベル上げそっちのけで武器や防具ばかり作っている変わり者だ。
その甲斐あって、職人レベルはカンスト、称号ももちろん「神の武器を作る男」をはじめとして各職人の最高称号をずらりと並べている。何よりすごいのは、運の要素が強いランプやツボはともかく、その他の生産物に関してはほぼ百発百中で☆3を連発するその腕だ。
実際、私も高レベル装備を作る際は何度もお世話になっている。
そんなAに作れないものがあるなど、こちらが驚いたくらいだ。
Aが言うには、その武器の名前はAのメインキャラと同じ名前(ある小説に出てくる古代の王様の名前)で、ある日レシピだけが差出人不明で送られてきたのだという。それはやたらに難しいレシピで、必要な素材もレアなモノばかりだったそうだ。
「きっとさ、腕のいい職人を対象にした極秘のベータテストだと思うんだよね」
と言ったAの顔は誇らしげで、まあネットゲームならそんなこともあるのかなと思ったものだったのだが…その話を聞いてから1か月、Aがふと漏らしたの冒頭のつぶやきだった。
聞けば、この1か月INしている時間のほぼすべてをその武器の制作に費やしており、山のようにあった素材やゴールドも使い果たしてしまったのだという。(実は、私も協力として少なからぬ数のレア素材を提供していた)
たちの悪いことに、この武器は制作に失敗すると「ロスト」してしまうらしく、失敗品をバザーでゴールドに変えるということもできないのだという。
いくらなんでもあり得ないようなおかしな話に、運営に問い合わせた方がいいと勧めたのだが、「ベータ版だからバザーに出せないようになっているんだよ」とか「極秘のテストプレイだから答えるわけがない」とか、挙句の果てには「このままギブアップしたら負けたことになってしまう!」と言い出す始末。
完全に病んでいるようだった。
Aを良く見てみれば、あきらかに寝不足の顔、何日も着替えていないだろう服装。ひょっとすると飯さえ碌に食べていないのかもしれない。
私が、その心配を口にすると、とにかく自分がゲームの手を止めている間に、ほかの誰かが作り上げてしまうのではないかと心配なのだという。できれば、今日会うために家を出るのすら避けたいぐらいだったと。
無茶苦茶だ。
そして、本題として切り出されたのが借金(リアルマネー)の申し込みだった。
「はぁ?飯代?家賃?」
いきなりの話に戸惑う私の前で、挙動不審に口ごもるA。
ピンときた。
「いや、RMTはマズいって!」
「大丈夫だって。1回だけにするし、BANされるのは業者だけでプレイヤーはいいとこ数日の出禁だろ?」
早口でまくしたてるAの、廃人プレイヤーを通り越した発言に、私は心底驚かされた。
「もう1回、もう1回やればできる気がするんだよ!」
きっとAはすでに生活費(下手をすると貯金も)をRMTにつぎ込んでしまっているのだろう。言っていることが完全にギャンブル狂の人間と同じだ(しかも成功したところで、お金が返ってくるわけではないところが救いがない)。
結局、彼に押し切られる形で数枚の紙幣を渡し、これで最後にするのを約束させるのが精いっぱいだった。
思えば、断固としてその申し出を断り、彼を止めるべきだったのだろう。
数日後、Aから「できた」とだけ書かれたSMSが携帯に着信した。
さすがに、やっと努力が報われたのかとこちらもテンションが上がり、すぐに電話したのだが返事はなかった。寝ているのかと思い、改めて祝いのメールを投げておいたのだが、結局返信が返ってくることはなかった。
それ以来、Aとは連絡が取れない。
ドラクエにINすることもなく、自宅を訪ねても留守のまま。
携帯、メール、SNS…Aは消えてしまった。
アストルティアの片隅にあるAのキャラクターの家。
戻らぬ主の帰りを待つコンシェルジュの傍らに、台座に突き刺さった剣のオブジェがある。台座にはAのキャラクターの名前が記されている。
その名前を持つ武器は、いまもまだ実装されていない。