-序章 天使の羽根は、なぜ白い-
昔、一人の人間がいた。
特別な力があるわけでも、優れた学者であるわけでもない。ただ、ほかの人々が当たり前だと思っていることに、時折疑問を抱く人物だった。
ある日のこと。
その人は、古い礼拝堂で一枚の絵を眺めていた。
絵には、白い翼を広げた天使と、黒い翼を持つ悪魔が描かれていた。
天使は光に包まれ、悪魔は暗闇の中にうずくまっている。
その人は、ふと呟いた。
「天使の羽根が白いって、誰が決めたんだろう」
隣にいた老人が答えた。
「白は清らかさの象徴だからだよ。光は善を、闇は悪を表しているんだ」
「でも、光が善だって、誰が決めたの?」
老人は少し困った顔をした。
「昔から、そういうものだからねえ」
その人は、もう一度絵を見上げた。
天使の翼は白かった。けれど、その天使が何をしたのか、絵からはわからなかった。
悪魔の翼は黒かった。しかし、その悪魔が誰かを傷つけたのかも、描かれてはいなかった。
ただ、色が違うだけだった。
「……変なの」
老人が立ち去ったあとも、その人は絵の前に立っていた。
礼拝堂の窓から差し込む光が、白い翼を照らしていた。
そのすぐ隣では、黒い翼にも同じ光が当たっていた。
光は、天使と悪魔を区別していなかった。
その疑問が、すべての始まりだった。

原典
https://x.com/aphrocyan/status/2111649459809681642
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