第四章 観測者
そのころには、世界中で一つの噂が広がっていた。
何百年も姿を変えずに生きている者がいる。
数百年前の戦争を知り、滅びた王国の姿を覚え、今では伝説になっている出来事を、まるで昨日のことのように語るという。
その人物は、どの国にも属さなかった。
王に仕えることもなく、神殿で祈ることもなく、ただ各地を歩き、世界を眺めていた。
争いを見れば、なぜ争うのかを考えた。
人々が幸福を喜べば、その幸福が何によって成り立っているのかを考えた。
ときには怒り、ときには悲しみ、それでも、その感情さえ一歩引いて見つめていた。
ある者は神だと言い、ある者は悪魔だと言った。
しかし、その人物はどちらの名前も受け入れなかった。
「私は、ただ眺めているだけだよ」
人々は、その者を「観測者」と呼ぶようになった。
やがて、観測者には人間の理解を超えた力が備わっていることも知られるようになった。
その力がどこから来たのかを知る者はいなかった。
観測者自身も、その理由を人々に説明することはなかった。
観測者は人間を憎んでいなかった。
幸福を求めることも、争いを恐れることも、生命が持つ自然な性質だと理解していた。
だからこそ、その仕組みに終わりを与えようと考えた。
ある日、世界中の空に、観測者の姿が現れた。
人々は足を止め、空を見上げた。
国境を越え、海を越え、あらゆる場所にその声が届いた。
「私は、この世界を終わらせることにしたよ」
人々は言葉を失った。
観測者は、静かに続けた。
「生きることは、求めること。求めることは、失う恐怖を生むこと。生命が続く限り、この繰り返しに終わりはない」
誰かが悲鳴を上げた。
誰かが祈りを始めた。
観測者は、それらの声に答えることなく話を続けた。
「あなたたちは、私を悪と呼ぶだろうね。でも、それもあなたたちの価値観にすぎないんだよ」
そして、空を見上げた。
「宇宙は、私たちが生きていることも、死んでいくことも、気にしていない」
その言葉を最後に、観測者の姿は消えた。
世界の終わりが、静かに近づいていた。

原典
https://x.com/aphrocyan/status/2111649459809681642
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