第二話 燃え残る火 前編
鍛冶場は崖の傍にあった。
煤けた壁に、石造りの炉。古びた道具は整然と並べられていた。
鍛冶場では、バロムが無言のまま炉に薪をくべていた。
火がぼうっと上がり、赤々とした光が煤けた壁を照らす。
足元に、小さな影が立っていた。
破れた鍋を抱えた、痩せた少年だ。バロムを見上げて、おずおずと声をかける。
「……これ、直してくれる?」
バロムはしばらく無言のまま鍋を見下ろしていたが、やがて無骨な手でそれを受け取る。
「……あぁ。任せとけ」
その声は、どこか優しげで、けれど沈んでいた。
鍛冶槌を取ると、迷いもなく叩き始める。
手つきは、剣を打っていた頃と何ひとつ変わらない。だが今、彼の手の中にあるのは、誰かを傷つけるものではなかった。
火花が散る中、痩せた子供がぽつりと訊ねる。
「バロムさ、本当はすげぇ剣とか作れるんでしょ?」
槌を振るう手が、ふと止まる。
鍋の底に落ちる火花を見つめながら、バロムは静かに呟いた。
「すげぇもん打って、すげぇ戦が起きたら困るだろ……」
子供はぽかんとした顔でその言葉を聞いたあと、何か言いかけて、口を閉じる。
少しして、絞り出すような声で言った。
「……そっか。強い剣があったら、僕たちの村も守れると思ってたけど……」
その声には、わずかな寂しさと混じった迷いがあった
バロムはその言葉に何も返さず、再び槌を振るう音だけが響いた。
やがて修理を終えた鍋を返すと、少年は小さく頭を下げて言った。
「……ありがと。バロム、またね」
その背を見送りながら、バロムはひとり、ぽつりと呟いた。
「……俺が打ったものじゃ、守れなかったんだ」
火の音だけが、鍛冶場に残った。