第六話 約束の槌
赫翼のルーガとの激闘を制したリクたちは、燃え盛る山を駆け下りていた。
刻一刻と迫る不安と焦燥に胸を焦がしながら――彼らの目指す先にあるのは、まだ戦いの火が消えぬ村。
「急がねぇと……!」
「ええ、行くわよ!」
そして辿り着いた村は、燃え、崩れ、叫びに満ちていた。
魔物たちはなおも暴れ続けていたが、ルーガを失ったことで統制は乱れていた。
そこへ、雷鳴のごとくバロムの槌が唸る。
「この村を……てめぇらなんかに壊されてたまるかッ!」
咆哮とともに、震天のごとき一撃が大地を叩く。
魔物は地響きとともに吹き飛び、消滅した。
セリアの魔法が味方を支え、リクの斧が光となって駆ける。
村人たちも勇気を取り戻し、共に戦った。
そしてついに、最後の魔物が絶命する。
村を包んでいた黒煙が、静かに風に流れていった。
***
日が落ち、村には静けさが戻っていた。
それでも、完全な平穏ではない。
燃えた家々、うずくまる遺族たち――
犠牲は確かにあった。
それでも村人たちは、生き残った命に感謝していた。
「リクくん、ありがとう……! あなたが来てくれなかったら……」
「セリアちゃんも、バロムも……本当に、ありがとう」
焼け残った広場に焚き火が組まれ、わずかな食糧を分け合って宴が開かれた。
涙と笑いが入り混じった、ささやかな夜の祝祭だった
リクは焚き火を見つめていた。
そこへ、セリアが静かに歩み寄る。
「バロム、あなたが振るったその槌…間違いないわ。“震天の槌”、ナンナの遺した武器よ」
バロムは焚き火を見つめながら、槌をゆっくりと立てる。
「そうか……。こいつは代々、うちの一族で受け継がれてたもんだ。
けどな、俺にとっちゃただの……故郷の形見みてぇなもんだった」
その目は、遠い過去を見ていた。
「滅んだ村で、唯一残ったのがこの槌だった。俺はそれを抱えて逃げた……それからは、もう誰とも関わらずに生きていくって決めた」
セリアは、静かに言葉を重ねる。
「バロム。あなたは、ナンナの血を継ぐ者……震天の槌の後継者よ」
「……そうか」
それだけを呟き、バロムは焚き火の炎を見つめ続けた
***
セリアは、真っ直ぐにバロムの横顔を見る。
「私たちは、“三闘士”の後継者を探しているの。
そしてリクも、私も、選ばれた者。
あなたも……一緒に来てほしい。
骨を纏う魔物たち――“骨喰らいの魔王”を討つために」
リクも続く。
「……バロム。僕達には君の力が必要なんだ」
しかし、バロムは首を横に振った。
「気持ちはありがてぇ。けどな……今の俺には、ここの方が大事だ。
この村は俺に生き方を教えてくれた。
守る理由も、返す恩もある」
その時だった。
焚き火の向こうから、数人の村人が現れた。
彼らは、バロムが打った武器を手にしていた。
「バロム……」
「俺たち、あんたの武器に助けられた」
「争いに使う気なんてねぇよ。だが、これはあんたに返すべきだと思ったんだ」
バロムは目を見開く。
そこへ、ひとりの少年が姿を見せた。
――鍋を修理した、あの少年だ。
「バロムのおじちゃん、ありがとう! ぼくの家、助かったよ! また鍋直してね!」
笑顔で、そう言った。
バロムは、しばらく黙っていた。
やがて立ち上がり、自らの槌を持ち直す。
「……武器は、返さなくていい。村を守るために使ってくれ。今のお前らなら、任せられる」
そして、少年の前にしゃがみこむ。
「坊主……約束、覚えてるか?」
「うん!武器は守るために使う!争いに使うような武器は僕とバロムおじちゃんでへし折るんだよね!!」
「ははっ……しっかり覚えてやがる」
バロムは、少しだけ名残惜しそうに、自身の槌を少年に渡した。
「これは俺の最初の槌だ。いいか、大事にするんだぞ」
少年が何度もうなずくのを見て、バロムは、ようやく振り返った。
「俺も……約束を果たさねぇとな」
リクとセリアの前に立ち、声を上げる。
「行くぜ。骨喰いの魔王ってやつを、ぶちのめすためにな。
ドワーフたちを傷つけるやつは、俺の槌で叩き折らなきゃならねぇ。そう、約束しちまったからな」
そして、広場に向き直り、拳を高く掲げる。
「村はもう大丈夫だ!!今日は朝まで飲むぜ!!リク!セリア!」
***
翌朝、三人は村の門をあとにする。
それぞれが背負う想いを胸に、次なる地
――山神イプチャルの元へ。
新たな三闘士として、真の力を手にするために。
旅立ちの空は、どこまでも澄んでいた。
第二章 鋼に宿る意志 完