第七話 祝福
静寂。
音が消えた世界の中で、ただ一つ。
終焉王ネクロ・フォドラスの身体に、亀裂が走っていた。
細く、鋭く、そして確実に。
ピシ、と小さな音。
それが合図だったかのように、無数の亀裂が全身へと広がっていく。
「……見事だ」
低い声。
だがそこに、怒りはない。
ただ、受け入れるような静けさだけがあった。
「これが……世界の選択……」
リクは、何も言わずに見つめていた。
斧を握る手に、力は入っていない。
ただ、その終わりを見届ける。
魔王は続ける。
「ならば……受け入れよう」
身体が崩れながらも、言葉だけは確かに紡がれていく。
「だが、忘れるな」
「光あるところに、闇あり」
「光と闇は、表裏一体」
声が、薄れていく。
それでもなお、最後まで告げる。
「光が強まれば……」
「闇もまた……深くなる……」
そして――
「……世界に、祝福あれ」
その言葉と同時に、終焉王ネクロ・フォドラスは、完全に崩壊した。
身体は光に変わり、粒子となって空へと散っていく
闇が消え、重圧が消え、空気が、戻る。
静かな風が、六人の間を通り抜けた。
「……終わったな」
誰となく、呟いた。
長い戦いの終わり。
終焉の魔王は討たれ――
世界は、平穏を取り戻した。
――かに、思えた。
足元に、影が広がる。
不自然なほどに濃い影。
セリアの背筋に、ぞくりとしたものが走った。
ゆっくりと、空を見上げる。
「こ、これは……いったい……」
言葉を失う。
他の者たちも、同じように視線を上げる。
そこには――
黒い太陽。
依然として空に浮かび、ゆっくりと確実に、
世界を押し潰すように、降下を続けていた。
先ほどよりも、なお濃く、なお重く。
脈打つそれは、まるで“生きている”かのようだった。
「そんな、馬鹿な!」
リクが叫ぶ。
「おいおい、嘘だろ……」
バロムが唸る。
ドルタムは無言で懐に手を入れ、古びた双眼鏡を取り出した。
それをゆっくりと目に当てる。
黒い太陽を、観測する。
じっと、じっと見つめ――
やがて、静かに、息を吐いた。
「……そういうことか」
双眼鏡を下ろす。
そして、告げる。
「魔王は、抜け殻だったんだ」