7
閉めた扉を背にして、へたり込む魔物が一匹。
「あわわわわ……ッ!」
その魔物――、赤鬼娘は、へたり込んだまま両手で顔を覆って嘆いた。
「大変なことになってきたッスよぉぉ……ッ!」
たわわに、ぶるるんッ、と、させながら。
「あんな感じで良かったんスかね、父上ぇ」
「問題ない。とにかく魔王様を止められればそれで良い」
父上と呼ばれたのは巨竜の魔物。
その体には包帯が巻かれていた。
「あれは見事な技だった」
巨竜は吊り目をさらに細め、微かに笑う。
「それは殺意などはまるでない、ただ己の信念だけを剣に込め、放った一撃だった。ワシは起き上がり、思わずジー……ッと見つめてしまったのだ。『ごめん、急いでるんで……』と、あの若造は行ってしまったが」
「あー、どおりでなんか寂しそうだったんスね。戻って来たときの父上の後姿が」
心なしか巨竜の頬が赤かった気がしたが、そこはスルーの赤鬼娘だった。
「なぁなぁなぁ、どうしてわざわざ止めたンよ? せっかく魔王様、変身し掛けたってぇのに」
と、似ても似つかない巨竜と赤鬼娘、モンスター親子の間に現れたのは、なにやら派手な格好をした細身の悪魔。
「魔王様にちょちょっと本気出してもらえば、勇者っつっても楽勝なんじゃね?」
羽根をパタつかせ、胡坐をかきながらも宙に浮いている。まるで道化師のようだった。
「ちょ、なんでアンタはそんな元気なんスかッ? ちゃんと勇者と戦ったんスかッ?」
赤鬼娘が詰め寄ると、ひらり宙を舞ってそれをかわす道化。
「いや無理、アイツは無理だって、まぢりーむー。もう本能が察したンだよね。あ、コイツに手ぇ出したらやべぇ、三秒でお花畑だ、って」
「ほぉ。それで文字通り尻尾巻いて逃げて来た、と?」
ぎろり、ドラゴンが睨んだ。
「いやいやいやいや、ちょー頑張ったよ、俺っち。使い魔を呼んだり、後ろで応援したり、宝箱の中身ぜんぶ毒消し草にすり替えたりしてたよ? すごくない?」
「ぜんっぜん、すごくないッスよ」
呆れた視線を送る赤鬼娘。
「つーか、そもそも俺っちの技、なーんも効かねぇし。状態異常が効かない勇者ってなによ、まぢチートじゃね?」
愚痴る道化。膝を抱えて丸くなってしまった。宙に浮かんだままで。長~い尻尾も、しょぼんっと項垂れる。
と。
「おれも、はなし、まぜろ」
またもや巨大な魔物が出現。
「おお、ゴーレムさん! 傷は平気ッスか?」
赤鬼娘が手を振って招いた。
「へいき、おれ、ねむらされた、だけ」
「なんと!」
ゴーレムさん、淡々と続ける。
「ゆうしゃ、なんか、こう、へんな、うた、うたった。ここちよくて、おれ、ねてしまった。たぶん、そのあいだ、ゆうしゃ、すりぬけてった」
「ええー……。それ、門番失格じゃね?」
「ゆうしゃ、たぶん、わるいやつ、じゃない」
と、石人形。その巨体のどこから声が出ているのかは不明だ。
「なかまに、なったら、おめかしグッズとか、くれそう」
「え、なに、ゴーレムちゃん、裏切る気~ぃ?」
「ちがう。ゆうしゃ、たぶん、ぼっち。おれも、ぼっち」
「まぁ、そうだな。俺っちが使い魔呼んだときなんて、『……う、羨ましくなんか、ないんだからねっ!』って、めっちゃ羨ましそうだったもんなぁ、あの勇者」
「だから、ゆうしゃ、たぶん、まおうさま、ころさない」
「いや――」
道化悪魔とゴーレムに割って入ったのは、巨竜。
「魔王様が、もしもあのまま変身していたら、間違いなく殺されてしまっただろう、勇者によって」
「まぢッスかっ?」「え、まぢでッ?」
驚愕する赤鬼娘と道化悪魔、ふたりの声が重なった。巨竜が続ける。
「変身後の魔王様はまぎれもなく最強だ。だが、強大な力を手にするのと引き換えに魔王様は、恐らく理性を失ってしまう。そうなれば、もはや止めることは容易ではないだろう」
「なるほどなー、勇者もきっと死にたくないもんなー。やるか、やられるかって感じか……」と、道化悪魔。
「いぁや、でもぉ、魔王様が負けるなんて……、ねぇ? あり得ないッスよ、ね、ね?」と、赤鬼娘。
「わからん。が、あの勇者はすでに何らかの力を秘めているようだ。魔王様を殺してでも、止めようとするはずだ。破壊の怪物を人の世に解放するなど出来ん、とな」
「だから、魔王様の変身を止める必要があったんスね、父上……」
魔物たちが一様に不安な面持ちの中、
「……じつは、まおうさまも、ぼっち」
ぼそっと、石人形の巨体が呟いていた。
しかし だれも きづかなかった ……。
つづく。
※この物語はフィクションです。