第2章 その11
「で、こんな牢屋にいるなんて、このヒト、何者なの?」
「まぁ、いわゆる、盗っ人……、コソ泥ですね」
「なんで言い直したぁッ? 格下げされちゃったよぉ、語感的にぃ、俺ッ!」
「えっ、同等でしょ」
「同等ですわね」
「「 ね~ぇ 」」
「ハモるなッ! ってか、もぉいいからさっさと話を進めろよ、オマエらッ!」
「そっ、そうだよっ、あんたね、いきなりあたしをこんなとこに連れて来て、どぉしようっていうの?」
メイドが静かに答える。
「姫様、城の外へは、この者に連れ出してもらいましょう」
「ええええーッ!」
「……なるほどなぁ。まっ、タダで脱獄させてくれるなんて、おかしな話だとは思ったが、そぉいうことか」
ひとり納得したかのような盗っ人ダーツだった。
「早くしないと夜が明けてしまいます。薬の効果も、そろそろ切れるころかと」
「う……、うん、そっ、そぉだね……っ」
「おいおい、姫さんよ。オマエ、そんなんで、大丈夫か?」
「姫様、いまなら、まだ、間に合いますよ。――お止めになりますか?」
はい
→いいえ
「ううん、平気。行くよ。だいじょぶ。あたし」
「……ったく、カタコトになってんじゃねーか」
「せいッ!」
メイドの こうげき!
ぬすっとは くびすじに 10のダメージ!
「痛ぇなぁおいッ! ぁにすんだよ! いきなりぃッ!」
「ウチの姫様になんて口の利き方をするのですか、あなたは! ワタクシは、ぷんぷん、だぞっ!」
「ああん? 可愛くねぇなぁ、おい」
「……黙れ小僧」
メイドの ひとみが あやしくひかる!
「ひぃ……ッ!」
ぬすっとは たちすくんだ!
……うおおおお、なんだこのメイドっ、ただもんじゃねぇ……ッ! 一瞬だったが、俺には分かるっ! コイツの目、殺気が、まぢパネェよ! なんつーの、こう……まるで、そう! 御頭にも匹敵するような眼力だぜ……って、あれれ……?
「まぁ、この一ターン行動不能中の盗っ人は、ひとまず放っておくとして。さて、姫様?」
「うん……、ごめんね、大丈夫」――姫は顔を上げ、真っ直ぐメイドを見つめる――「せっかくあんたが用意してくれたチャンスだもんね。……うん。あたし、行くよ、行ってくる!」
にっこりと柔らかにメイドは微笑んだ。
「ええ、姫様。良い目を、しています。もう、大丈夫ですね。――さぁ、本当の本当に、出発の時間ですよ、よろしくて?」
「お……、おうよ、作戦――『俺にまかせろッ!』だぜっ」
「………………っ!」
「えっ、なにっ? ぁんだよ?」
「いえ……、ツッコもうか、私もノリボケしようか、と思いましたが、時間がないので、我慢しました……うぅ」
「偉いよ! ここにきて、あんた偉いよぉっ!」
「ったく、なんなんだよぉ、このメイドとお姫さんはぁッ!」
「さぁ、――あそこの階段を駆け上がって棟の最上階へ、窓から城外へ出て、屋根を伝って行けば、城壁も越えられます。すべてのカギは開いておりますので」
「おぅよ、はやくしねぇと、あいつも心配してるしなっ」
「? 誰か、待ってるの?」
「まぁ、な。へへへっ」
不敵に笑う盗っ人だった、が、
「………………ぐっ!」
「がんばっ! 堪えてぇっ!」
「……なぁ、このメイドさん、病気なのか?」
「ま、ある意味ね……」
メイドは グッと こらえた!
「よしッ! ではッ! いっきますよ~ッ!」
「いやいやいや。てかよぉ、なんで、アンタが気合い入れてんだ? アンタ、見送るだけだろ……?」
と、
「きゃあああああッ! たぁすけぇてぇええええッ! さぁらぁわぁれぇるぅうううう~~~~ッ!!」
なんと!
メイドの さけびが こだました!
「……えっ?」
「……ちょ、おい!」
どこから ともなく こえがする!
「なっ、なにごとかッ!」 「てっ、敵襲かッ?」 「皆の者ッ、ひめさまをお守りするのだーッ!」
そして、お城のあちこちから兵士たちの声が上がった!
「うっわ、あんた、あたしの声真似、ちょー上手いじゃん!」
やった!
ひめは かんどうした!
「ちょいちょいちょいちょーい! まぢかよぉッ!?」
上の方からドタバタと足音が響き渡り、誰も彼もの混乱した声が上がる。
たった一声で、城内はみるみる喧騒で包まれていく。
「ほぇぇ、よく通る声してたのねぇ、あんた」
ひめは よいんに ひたっている!
「感心してる場合かっ! それどころじゃねぇだろぉがッ! ったく、どぉいうこった、こりゃぁッ!?」
「ええ、ダーツ様には申し訳ございませんが、このほうが、私たちにとって、都合が良いので。――『姫様は、賊によってさらわれてしまった』――という事実が、ね♪」
「「ええええーッ!?」」
つづく。
※この物語はフィクションです。