第3章 その12
「――貴様は、勇者なのだろ――?」
「――いいえ、私は勇者ではありません。まわりが勝手に私をそう呼ぶ、それだけです――」
もしも……、互いに認め合えば、違う未来があったというのか……?
静寂。
いつの間に、眠ってしまったんだろう?
少年は目を覚ます。
のろのろと起き上がり、辺りを見渡した。
そこには、“誰も”いなかった。
ややあってから、少年は獅子型モンスターの亡骸に近寄った。
その巨体によじ登り、胸部に突き刺さった剣に手を伸ばす。
しょうねんは おもった。
……急所を一撃! って、やつか? ……すごいよな、ったく……。
柄を握り、ぐっと力を入れて、少年は一気に引き抜こうとする! ……が、
「んぐぎぎぎぎぎぎ……ッ!」
そう簡単には、いかないようだった。
筋肉か骨かに、喰い込んでいて、なかなか抜けそうにない。臓器がマヒして固まってしまったのであろうか。剣はびくともしない。
もしかしたら、もう二度とこのモンスターが蘇らぬよう、封印の意が込められているのかもしれない。
だけど、この剣だ。
この剣なんだ。
ここには、この剣だけが、残されていたのだから。
何としてでも、余が、いや――“ぼく”が、受け継がねば……!
「ぬぎぃ~~~~~~ッ!」
柄を左右に振るように、渾身の力を込める。抉るように、抜くべし! 抜くべし! 抜・く・べ・し……ぃッ!
…………と、
「や……っ、やったああああーーーーーーーッ!」
少年は思わず歓喜の声を上げた。
ついに剣は引き抜かれ、受け継がれたのだ。
しょうねんは ゆうしゃのつるぎを てにいれた!
その瞬間、
「こ、これは……、一体……、どゆこと……?」
モンスターの なきがらが かわっていく。
今までそこにあったはずの巨体がすべて、風に舞う砂塵のように崩れ去り、少年は地面に膝を着いた。
舞い上がった粒子は、きらきらと輝きを放ちながら、一点集中ぎゅ~~~っと凝縮し、やがてひとつの光球が出来上がった。
そいつはしばらく、辺りをふわふわと漂って、少年の片手の上に、舞い降りる。
それは……、“とある姿”へと……、変わっていき、
「ハぁ~イ! ボク、ピクシー! 仲良くしてねッ!」
「…………………………」
…………ああ、うん、いや、えー……っと。
なんだろな、これ、この感じ。
ひどく懐かしいような、そうでもないよーな、……誰か名付けてくれないかな、この感覚に。
とにかく、コイツ、なんつーの、こう……、愛らしい姿を、してはいるのだが……、
「はいはいはーい! ここから先はぁ、ボクに、お・ま・か・せッ! きっちりばっちりたのしくやさしくサポートしちゃうよぉ~ん、てへっ! さぁみんな! 準備は、おk~ぃ?」
……わざとらしく鼻にかけた声、ガチャガチャと目につく全身の色合い、なにより手のひらサイズでぶんぶんぶんぶんと(パタパタ、なんて生易しいもんではない)、飛び回っているのが、よけいに目障りだった。
しょうねんは おもった!
…………あ、わかった、ウザい、だ。うん。なにコイツ、ちょーうぜぇ。
「…………あ、わかった、ウザい、だ。うん。なにコイツ、ちょーうぜぇ」
「ちょいちょいちょいちょーい! 思考が声に出ちゃってるよ~ぉ、きみぃ~ッ?」
驚愕した奇妙な小物体。ていうか、勝手にヒトの心を読むな!
少年はそいつにジト目を向けた。
「おい、なにもんだ、お前?」
「ん? 言ったっしょ? ボク、ピクシーだよ!」
「ぴく……しぃ……、だと?」
そいつは、手のひらサイズで、羽根を生やして、虹色のワンピースを着て、耳が尖っていて、ふわふわきんいろ盛り髪で、見た目の通りを言葉にすると……、
「つまり、あれか? なんつーの、こう……、妖精?」
「そそそそそ! ボク、ようせいさんだよ! よろしくネっ!」
目の前で浮かぶその小物体がピースサインでドヤ顔を決めた。
つづく。
※この物語はフィクションです。