2014-09-07 15:41:17.0 2015-07-23 18:00:10.0テーマ:その他
ゆうはん。(仮)39 「くらうがいいですっ、そして、おどるがいいですよっ、……あいと、じょうねつの、りびどーですぅぅぅっ!!」 「……お前、難しい言葉、良く知ってンのな」
第4章 その4
「いやあああっ、なのですっ! しじんさん、しじんさんっ、どうして……、どぉして、しんぢゃったの、ですっ?」
「おいコラちょい待てぃ。勝手に殺すな、まだ死んどらんッ!」
しじんは おもった!
……ったく、初登場早々にして、くたばってたまるかッ、どこぞの蟹刑事か俺はッ!
「ぐぎぃぃ……おぉ痛ぇな、ちきしょう」
全身の痛みに耐えつつも詩人は視線を戻した。
鳥獣型の怪物どもが、低空飛行で旋回を繰り返し、それは再び襲い掛かるタイミングでも計っているかのように見えた。
どうやら悠長にしてはいられないようだ。そう思い、詩人が立ち上がろうとした、そのとき、
「……かくなるうえは……」
今まで詩人の足にしがみ付き、泣き喚いていた少女――、
「このイオが、たたかうっ、ですっ!」
イオが叫んだ。
「な……ッ? よせ、イオッ! 何考えてんだ、お前ッ、やめろっての……ッ!」
唖然とする詩人の眼前へ飛び出し、凛と立ちはだかる、イオ。
「しじんさんっ、かたきは、とるですっ! やすらかに、おねむりください、ですっ!」
「いやだから俺ぁ死んでないからね、まだ。……ってか、そんな予定ないからねッ?」
「……へんじがない、ただのしかばねのようだ、ですっ……」
「ちょいちょいちょいちょーいッ! めっちゃ返事してるぢゃーんッ俺ぇぇぇッ!」
え、なんで無視ッ? 無視なのッ? 近ごろの幼女、怖ぁああッ!
と、そんな詩人をよそにしてイオは、小さな小さなその両手を、目一杯、大きく大きく広げてかざし、
「かいぶつさんっ、くらうがいい、しゃくねつのごうかを、ですっ! イオのじょうねつけいじゅもん……」
「じゅ、呪文だと……ぅッ?」
まさか、こんな子供が、魔法使い……?
しかし、詩人がそう思ったその瞬間、隙をついたように、怪物どもが一斉に飛び掛かって来た!
詩人はその小さな背に手を伸ばすが…………、ダメだッ、間に合わないッ!
「ばッ、バカタレぇッ! 避けろッ、イオ! あぶねーぇッ!」
イオの こうげき!
イオは じゅもんを となえた!
「――――ガタ〇キラっ!!!!」
「ガ〇メキラ、とな――――ッ!?」
あたりに ばくはつが まきおこる!
イオは モンスターAを たおした!
イオは モンスターBを たおした!
それは閃光、そして暴発。イオが放った光の球が、怪物の身体に触れた途端に爆発を起こし、後の何匹をも巻き込んで、燃え上がった。そして怪物だったものは黒い粒子になって散り、消え去った。
「なっ、なっ、なっ、なっ……」
しじんは おもった!
……なんちゅー恐ろしいガキなんだコイツぁッ! 子供のくせに、この魔力……、そーとーヤバいぜよ、ゴクリンコッ!(※固唾を飲む擬音) 雑魚とは言え、あのバケモノどもを、ひとりで全部やっつけちまうなんてッ! …………ん、全部? ツェー、デー、エー…………あれあれ?
「やっ……、やったあああっ、です~っ! イオ、やりましたですよ~っ! ……てんごくのしじんさんっ!」
「てめッ、まだ言うかッ! だから死んでねぇっつーのッ!」
ぴょんぴょん跳ね回って喜ぶ、ケモ耳フード姿のその少女に、詩人は嘆息した。
「あのなぁ、イオちゃんよぉ。そもそも、お前さんがなぁ、俺の足に引っついて来なけりゃぁこんなことに…………ん?」
すると。
子供のはずのイオの目線が、成人男性(住所不定無職)である詩人(自称)の目線と、何故か同じ高さで……、
「はにゃ……っ? イオ、なんで、とんでるっ、ですっ? えっ、ちょっ、ちょっとまつですっ、なんか、どんどん、しじんさんが、とおくなるですよっ?」
イオは、厨二……、もとい、宙に浮かんで、ふわふわとそのまま上昇し始めていた。
「なにこれ、ですっ? しじんさんっ、これ、どゆことー、なのですっ??」
「お~お~やっぱりな~。数が足りねぇと思ったぜ~」
と、悠然と見上げている、詩人さん。
「……えっ?」
恐る恐る、イオが振り向く、と、
「んぎゃああああっ! おろしてっ、おろしてくださぁいっ!」
なんと!
モンスターがイオを持ち上げていく!
……おそらく、爆発の中を生き残っていたのだろう、鳥獣怪物の最後の一匹が、背後からその鉤爪でイオのコートを器用に掴んで引っ張り、大きな翼をはためかせ、文字通り浮かび上がっていたのだ!
「このままイオは、とりになるですかっ? いまとりになって~、とりになって~、イオはとりになって~、……おおぞらをとぶ、ですかっ?」
「意外と余裕なんだな、お前……」
「ああっ、でも。このままいけばっ! てんごくのしじんさんに、あえるかもっ、ですねっ!」
「まだそれ言うのッ!?」
つづく。
※この物語はフィクションです。