第4章 その14
「さて、と。ん……ぅ、どうしたもんかねぇ」
詩人は唸った。
唸るたびに、手の中の機具に目を落とした。画面の中には相変わらず不思議な少年が写っている。眠たげな目がぼんやりとこちらを見ているだけだ。
コイツを捜すのか。
しじんさんは おもった!
……ったく、子守りの次は迷子捜しかよ。
黒服が目を離した隙に、逸れてしまったらしい……が?
「ま、このままじゃラチが明かねぇし。とにかく、コイツが立ち寄りそうな所を回ってみるしかないかな」
そうして詩人は、雑踏に紛れていった。
ふと、詩人は足を止めた。
大きな商店がある。
その店前には、いくつもの剣や槍、斧などが飾られている。
「なるほど、武器屋か。一応、覗いてみるか」
店内には従業員らしき若い女性がひとり。
詩人は彼女に声を掛けた。
「邪魔するぜ、ちょっと人を捜して――」
と、
「いらっしゃいませこんにちはー! いらっしゃいませこんにちはー!! いらっしゃいませこんにちはーッ!!!」
「…………う、うるせーなぁ。いきなりなんなのよ、一体?」
店員の元気良すぎる挨拶に、耳がキーンってなった詩人さん。
驚き戸惑う詩人へと、ニッコニコ顔の女性店員がすかさず追撃!
「こちらでお召し上がりですかー?」
「なにをッ!?」
……あれあれ~、ここ、武器屋だよね?
「あっちゃ~ぁ、こちら、かなーり使い込まれておりますねぇ」
「ちょーいっ、なに勝手にひとの剣を見てンのーッ?」
てんいんは しじんのつるぎを ぬすんでいた!
てんいんは しじんのつるぎを みさだめた!
「んー、全体的に痛んでおりますしー、切先も微妙に曲がっておりますしー…………はい、お見積り、このようになります~」
はたして、店員が差し出す受け皿には――、
……銅貨が二枚。
「ええええッ! たったこれだけッ? もうちょっと値ぇ付くでしょうよッ! 数々の激戦を共に乗り越えた業物なんだぜッ?」
「は~~~ぁ? なんすかー、言い掛かりっすかー? 困ったお客様ですねぇ。いるんですよねぇ、そういう人~ぉ」
彼女は大きく嘆息し、続ける。
「だいたい今時、需要あると思ってんですかー、片手剣なんて。それに、たかが量産型の剣一本でわめくなんて大人げないと思わないんですか? ったく、いやしいったらありゃしない」
「どこまでも辛辣ッ! 接客業にあるまじき行為ッ! てか、そもそも俺は査定を頼んだ覚えはねぇッ!!」
「けん~をうーるなーら、そーどおふ~♪」
「歌うなーーーッ! てか、売らねぇよッ!?」
ややあって。
「なぁんだ。武器を売ったり買ったりしに来たのではないのですねー」
「ああ、客じゃなくて悪ぃンだが。それでな、ちょっと人を捜しててな。この人物なんだけど――」
詩人は画像を見せようとするが、
「あ! わかりました。じゃぁ、働きに来たのですねー?」と、その女性店員、そして口調が急に変わり、「――なら、いつまでもそんなとこ突っ立ってないで、こっちに入んなっ!」
てんいんは しじんさんの てをひいた!
「え? え? ちょ、まって。なんで引っ張られてるの、俺?」
しじんは カウンターのうちがわに たたされた!
そして、
「そこに立ってれば、客が来るはずだから。給料はちゃんと歩合で払うからな、しっかり働くんだぜ? じゃぁまかせたぜ、私は奥で休んでいるからな」
てんいんさんは みせのおくへと きえて――、
「ちょいちょいちょいちょーいッ! どこ行くんだよ! てか、働かねぇよッ!?」
「え、だって、お客様じゃなければ、もう、バイトをしに来たのだとばかり……」
きょとん、とした顔の女性店員。口調が元に戻っていた。
しかしそんなことはもはやもうどうでもよくて。
詩人は声を荒げた!
「違うから! ひとの話を聞けっての!」
が、
「『わりときょうりょくなつるぎ』、とか売られるのを待って、後々ご自身で購入する気なのでは?」
「知らんがなッ!」
「このさきの こうりゃくが すこしらくに なりますよ?」
「何の話だーーーッ!?」
しじんのさけびが こだまする!
「もう……なんなんだよぉ……この世界は……どこまでも俺を陥れようとしてるのか」
詩人は床に手をついて項垂れていた。そばでは店員さんが暇そうにしている。もう飽きたのだろうか。
ふと、詩人は言葉を思い出した。
――今のこの世界は間違っている、と。
あながちウソではないような気がしてきた詩人さんである。
「ああ……、そういや、あいつ、……イオが言ってたっけなぁ」
「サラリーマンにはなりたくねぇ~、と?」
店員さん。
「違うッ!」
……飽きてなかったようである。
つづく。
※この物語はフィクションです。