2017-01-18 06:33:14.0 2017-01-18 13:40:37.0テーマ:その他
ゆうはん。63「伝説にはこうあります。――その者、白き衣を纏いて翠緑の地に降り立つ――、と」 「それ絶対ウソだよねッ? こないだ金曜○ー○シ○ーでやってたからって、影響されすぎじゃねッ!?」
第4章 その28
「ふぃ~。やれやれだったぜ」
逃げ出した荒くれどもが見えなくなり、一息ついた詩人だ。
だがこれで、ようやくひとつ目的が果たせた。足元で気絶したままの、黒髪の少年。そして、あとは、もうひとり、と、
「詩人……。アンタ、ホントに強かったんだ……」
シスター見習いの少女が、ジッとこちらを見つめている。それに対し詩人は、
「ふふん、惚れたかい?」
「ばっ、ばか! だ、誰がアンタなんか……!」
「あれ、お前さん、顔赤くね?」
詩人が茶化した。
「べ、別にアンタのことなんて、なんとも思ってないんだからねっ!」
見習いの少女は真っ赤になって声を上げた。すると詩人は急に目を細め、明後日の方向を見つめ、
「でもな、お前さんには悪いが、俺は流浪のうたびと、さすらいの吟遊詩人さ。歌詠み流れ、旅から旅へ。そう、ひとつの地に留まることは出来ない運命(さだめ)なのさ」
なんと!
しじんは じぶんじしんに
よいしれている!
「だ、ダメよ! あたしには、あの人が――ゆうしゃさまが居るぢゃない! 目を覚ませ、あたし! うおおおお……ッ!」
なんと!
みならいしょうじょは じぶんでじぶんの
ほおを れんぞくひらてうち!
「……おふたりとも。それぞれ自分の世界に浸っているところ申し訳ないのですが」
「それでも良いと言うのなら、いいぜこいよだいてや……ん? ああ、悪いな、院長さん。なんか騒がしくしちまってさ」
院長の冷静な一声にやっと目を覚ました詩人さんだ。
「いえ、あの者たちを放って置いたら今頃どうなっていたことか。結局またあなたに助けられましたね。ありがとうございました」
「いやいや、あいつらとは、俺もちょっと、な」
むしろ、俺が巻き込んじまったのだろうか、詩人は複雑な心境だった。
院長が続ける。
「しかし、おかしいですね。先代の国王様より預かりしこの施設、いくら商業協会とは言え、あのような者たちが急に押しかけてくるとは……」
「それなんだがな。やつら、言ってただろ、孤児をみんな寄越せって。でもそれは違う。やつらが狙っているのは、イオひとりだけなんだ」
「イオ……?」
見習いの少女が首を傾げた。どうでもいいけど、頬めっちゃ腫れてるぞ。
「ああ、そっか。えっと、もうひとり子供を捜してるって言っただろ? イオってやつでさ、真っ白な格好した、やたら元気なチビっこが来なかったか?」
「それはまさか、魔法勇者イオン様のことですか!?」
詩人の問いに答えたのは院長だった。というか、
「イオン“さま”だと~ぅ!?」
え、なに、アイツ、自分で言いふらしてンのか? しかもなんか敬われているし……。驚愕の詩人だ。
「先日、この地に大勢の魔物が現れたとき、イオン様がその絶大なる魔法力で我々を守ってくださったのです」
「ええー……なにやってンの、アイツ」
大勢の魔物って、あの仲間呼ぶ昆虫かな。アイツ、虫平気だったっけ?
しかし! それはいま
わりと どうでもいい!
「ですが……イオン様は……」
「?」
何かを言いづらそうな院長だが、
「イオン様は、――今、ここにはおりません!」
きっぱり。
「な、なんだって~ぇッ!?」
驚愕の詩人さん、ふたたび。
「イオン様は、己の未熟さに気付き、山奥へ修行に入られました」
「えええええー、いまさら~ぁ?」
おいおいおい、アイツ、まぢで何やってンのッ?
詩人は胸中に叫んだ。
「今しばらくは、帰りを待つこととしましょう。それよりも……、大丈夫なのですか?」
院長が急に不安気な顔を見せた。
「え? あ、コイツ? ……いやぁ思いっきり投げちゃったからなぁ。受け身とかとってなさそうだし。頭とか打ってたらどうしよう。ヤバいかな。でもコイツ、剣のウデだけは格別だったけどな。何者なんだろな、コイツ」
いまだ足元で倒れたままの黒髪の少年を気遣った。
が、
「いえ、そうではなくて……。詩人さん、あなたのお身体の具合は?」
「え、俺のからだ? 別に、なんともなきゅ~~~~ッ!」
ばったり!
しじんは いきなり ぶったおれた!
「いけない! 早く、この方を休ませてあげなくては!」
「うっわ、身体あっつ! 熱すっご! ……こんな身体で戦ってたンだ」
見習いの少女が声を落とした。
詩人さん、またしても、ばたんきゅーエンド!
つづく!
※この物語はフィクションです。