2023-11-27 05:49:27.0 2023-11-27 05:53:21.0テーマ:その他
ゆうはん。82「あれ? お兄ちゃん、左肩の上のほうに誰かいるよ?」「え、お前にも見えるの? てか、まだいるのッ?」【まおぼく】
第5章 その12
魔物から村人さんを守った俺たち。
その村人さんが俺の手を取り声を上げた。
「おお、ついに見つけましたぞ。探しましたよ勇者様!」
「へい? 探してたって、誰を?」
え、俺を?
村人さんは両手を重ね固く握手したまま俺に、
「はい。勇者様、どうか私の村を救ってくださいませ!」
「ちょ、なにそれ、急じゃねっ?」
「実は私、隣の村の村長をしているのですが……、我が村では謎の奇病が流行っていて、どうやらそれが魔物の仕業らしいのです。どうか、どうかお助けください勇者様!」
「おおぅ、まぢかよ……」
ここに来てまさかのマジトーン。
真剣な表情の村人あらため村長さんを前にして、ちょっと身を引いてしまう俺である。
村中に奇病を流行らせる魔物とか、それ絶対やばい奴じゃん。俺なんかにどーしろってんだ?
と、
「勇者さま、ちょっと」
「ん、どした?」
魔術士ちゃんが急に俺の袖を引っ張って、
「困っている人々がいるのですよ? 何を悩むことがあるのですか? 今こそ勇者さまのおチカラが必要なのでは?」
くりっと大きな瞳をした魔術士少女は真剣そのものだ。
俺はついつい目を逸らし、
「いやぁ、そうだけどもさ。早いとこ魔王やっつけてこの旅とっとと終わらせたいしぃ、寄り道なんかしてる場合じゃないだろぉ?」
「ですが、それが魔物の仕業となれば私たちにも関係ないとは言い切れませんよ。少しでも魔物の数を減らし、魔王の戦力を下げなくては?」
説得上手だなウチの魔術士少女は。
しかし未だに俺といえば、
「そうは言うけどねぇ、なんとなく感じるンだよなぁ、なんてゆーの、こう……この章になってから、ぜんぜん話進んでなくねッ? ……あ、いや、こっちの話な、うん。まぁ、とにかく、これ以上だらだらするってのもねぇ……う~ん、どうしたもんかなぁ」
しぶる俺。
すると村長さん、
「村を救ってくれましたら我が家に伝わる財宝を差し上げま――、
「さぁ行こう! か弱き人々が俺たちの助けを待っているぜッ!」
……すっげぇ良い顔してたと思うよ、今の俺。
「ああ、それでこそ勇者さまです!」
こっちもイイ顔した魔術士ちゃんよ、キミはホントにそれでいいのか?
*
そんなこんなでやってきました、となり村。
「着きましたね、勇者さま」
「な、なんだこの村は……ッ!」
俺は村中を見渡した。
そこは、先ほどの村とは真逆だった。
淀んだ空、立ち込める瘴気、昼間だというのに陽射しは弱々しく濃霧の中にいるようだ。
誰もが口元に布を巻きつけ、人々は決して互いに接触しないよう一定の距離を取っている。極力会話も避け、なるべく外出しないようにと注意書きした張り紙がそこらじゅうにされている。
こ、この村は……、
「呪われてるじゃねーかッ!」
「だから言っていたじゃないですか」
そうだね、言ってたね、だから来たんだったね!
「なんて嫌な感じだよぉ。こっちまで身体が重たくなってくるし」
「ああ、勇者様」
村長さんだ、
「ここから先、魔の森の奥深く、山のふもとの洞窟に邪悪な魔物が巣食っております。全ては奴の呪いが元凶。どうか魔物を倒し、我々の村に再び安息の日々を取り戻してくださいませ!」
う~む、ホントにやれるのかね、俺らのチカラで。
不安な俺、と魔術士少女は、
「大丈夫です、勇者さまは私がお守りします」
いや、キミのチカラがすっげぇってことは分かってるけどさ。
「あ、いえ、“私たち”で、お守りしますね」
だから俺の背後に目を向けて手を振るんじゃない!
てかそれ、もしかしてずっと俺に憑いて来てるのッ?
しかし!
ゆうしゃには なにも みえない!
つづく!
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。
第一回はコチラから↓
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/183827313689/view/1989548/