2023-11-28 01:41:11.0 2023-12-14 02:50:41.0テーマ:その他
ゆうはん。83「魔王、ぼく(勇者)が会心の一撃決めたらどんな顔するだろう? ―戦いのとき― 」【まおぼく】
第5章 その13
深い森の中を進む俺たち。
ますます瘴気が濃くなっていく。
見たこともない植物が巨大な樹木に絡みつき、天然のトンネルを作っている。不気味な木々に囲まれ辛うじて続く小道を突き進む。ここは魔界の入口なんじゃないかと思うほどだ。
「あれは、勇者さま?」
小さな泉が湧いていた。
そこを中心にこの周りだけ空気が澄んでいた。
「この泉、なにか不思議なチカラ、いえ悪いモノではありません。むしろ聖なるチカラに守られているようです」
淡々と語る魔術士少女。
すごいな、俺は感心した。
「そんなことが分かるのか?」
さすが魔術士と言ったところか。
「いえ、私の兄が苦しんでいるので?」
「ちょいちょいちょいちょーい!」
だから俺の後ろを指差すな!
俺には見ねぇんだからさ! あと、だとしたら戦士さん、ホントに大丈夫か?
「ふふ、冗談ですよ」
笑えねーよッ?
身内をネタにするなし。
「……半分は」
「はんぶんってなにッ?」
とは言え、ここが神聖な場所だろうことはなんとなく俺も理解した。
そこで俺はしばしの休憩を提案。
焚き火を囲み、交代で仮眠を取ることに。
*
ちゃぷ、ちゃぷんっ……。
微かに水の跳ねる音がして俺は目を覚ました。
ふと見れば、ひとり静かに泉に浸り、身を清めている少女の姿が。
「お兄ちゃん……、私、頑張るからね……」
今は亡き兄(呼べばすぐ出てくるが)に、そう固く決意する彼女。その呟きに俺は胸中で思った。
――俺の妹も今もどこかで何かと戦っているのだろうか?
と、
「勇者さまは絶対に私が守るから……。見ていてね、お兄ちゃん……」
俺はただ、寝たフリを続けるしかなかった。
翌朝。
森の深く山の岩壁にぽっかりと洞窟の入り口があった。
その周りの木々だけが焼けた後のように不自然に枯れていたのが不思議に思えたが、ここから発生している瘴気のせいかもしれない。となると、間違いないだろう。この中に元凶の魔物がいるはずだ。
俺たちは用心しながら奥へと進む。
しばらくすると大広間に抜けた。
怪しげな空間だった。
所々崩れかけた壁、地面に残った血痕、さらに天井には大きな穴が開いている。
かつて何者かが戦ったであろう跡なのか。
「勇者さま、下がってください」
ん? どしたね魔術士ちゃん? 誰もいないし、とりま、帰ろっか?
なんて悠長な俺を制し、
「何かが、迫って、来ます――ッ!」
魔術士少女が叫んだ。
あたりから一段と濃い瘴気が部屋の中央めがけ渦を巻き、中から黒い塊が溢れだす!
グオオオオオォ……ッ!
地の底からの唸り声が反響し俺は咄嗟に耳を塞いだ。なんだコイツは!
巨大な獅子――だったものが、そこに現れた。
全身から腐臭を吹き出し、喰い荒らされたかのように随所の肉はただれ、顔面の半分は骨が剝き出しになっている!
獅子型の大魔獣ゾンビだ。そんなやつが二足で立って不気味に吠えている。
「ダメです、勇者さま」
おっと、魔術士ちゃん、ついに恐れをなしたか?
「――契約できません!」
「キミ、あんなのも従えるつもりだったのッ?」
確かに死したモノだけども! 魔獣だぜ? 腐ってるんだぜ? そのチャレンジ精神に脱帽しちゃうね、俺は。
おっと。
丸太のような腕からの一撃が振り降ろされるが、俺と少女は左右に飛んでそれを躱した。
うーん、ゾンビのくせにコイツもなかなか素早いな。
「勇者さま……?」
「ノーノー! ステイ、すて~い!」
「む~ぅ……」
俺の指示に不服そうな魔術士ちゃんだが、しぶしぶ従ってくれた。出来ればこれ以上チカラを使わせるわけにはいかないのだ。キミの寿命も大事なんだってば、俺は。
「よし、ここは俺が!」
腐肉をまき散らしながら突進を繰り返す大魔獣。冷静に回り込んで避け続ける俺。うーん、相変わらず獣タイプの魔物はやりやすいから良いよねぇ。俺もだいぶ慣れたよなぁ。
そして一瞬の隙をつき、
「んじゃ、そろそろ……お前も経験値に還りなッ!」
俺はチカラを込めて巨体を十字に切り裂いた。
グオオオオオォ……ッ!
黒々とした粒子となって魔獣は飛散した。
ゆうしゃのこうげき!
なんと!
まものを やっつけた!
しかし……?
「なに――ッ!」
なんと!
まものの からだが さいせいしていく!
「おいおい、どーなってんのよ、これッ?」
かき消えたと思った黒い粒子が中央に戻り、再度巨体を形成していく。
先ほどよりもさらに巨大に。より腐敗が進んだ哀れな姿に。
グオオオオオォ……ッ!
再び大魔獣が襲い掛かって来る!
つづく!
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。