2024-05-30 04:11:03.0 2024-07-09 23:57:55.0テーマ:その他
104【ゆうはん。】「ではなんとお呼びすれば?」「だから好きにしていいって」「んー、じゃ、若様ってのはどう? お兄ちゃん」「なんでお前が決めるんだ?」【まおぼく】
第6章 その4
「ねぇや、アレ。なんだろ、村かな」
「こんなところに人里が?」
王子と女騎士、ふたりの視線の先には集落があった。
山間の奥、緑に囲まれた崖下辺りに住居らしきものが見えたのだ。
ふたりは森を抜け小路を見つけると、その村へと向かった。
ちょうどその方向からひとりの男性が現れた。
「おめーら、こんなとこで何してる?」
身なりから農夫のようだった。
「あ、こんにちは。えっと、あの村の方ですか」
咄嗟(とっさ)に笑顔で応じた王子だが、
「……なんだぁおめーら、チャラチャラした格好しやがってよぉ」ジロジロと不審なものを見る目の農夫、「まぁ、悪いこたぁ言わねぇ、この先へ行くのはやめとけ。とっとと帰んなよ、チビ」
と、
「おい貴様、口を慎め。このお方を前にそのような態度とは……切り捨てるぞ?」
女騎士が割って入った。
「なんだぁ、ねぇちゃん。やんのか、あ?」
髭面の農夫が手にしたクワを構えた。
対して女騎士も剣を抜く。
「いい度胸だ。命知らずめ。錆にしてくれる」
「ちょっ、ねぇや、少し待って!」
慌てて止めに入った王子だ。
「しかしこやつ、王子のことを、チビなどとッ!」
「別にいいから。ぼくはいちいち気にしてないよ」
「ですが、王子……ッ」
納得が行かない様子であたふたする女騎士だ。
「あ、そうだ」と、王子はひそひそ声で、「ていうかさ、王子って言うの止めてくれないかな?」
女騎士の耳元で囁いた。
「――ひゃんッ」
びくッ!
「…………そーゆーの、いいから」
やった!
おうじは あきれている!
気を取り直して。
「な、何故です、王子」
「あんまり王子王子って言うの良くないと思うけど? 目立って騒ぎになったらどうするの?」
「そ、それもそうですね……」
「それにぼくはお城から抜け出した身だ。もう王子なんか名乗る資格はないよ」
「いえ、私にとって王子は王子です。……でも、なんとお呼びすれば?」
「ねぇやの好きに呼んでいいよ」
「そうですか、では……こほん、――おいコラこのわがままダメチビ坊主ッ!」
「ちょいちょいちょいちょーい! 悪意が! ……ねぇや、なんか、私怨入ってない?」
「てへ☆」
「――てい!」
「――ああん!」
おうじの こうげき!
やった!
おんなきしを だまらせた!
「もぉ、ねぇや、お口ちゃっく!」
「むぐぅ……!」
「――終わったか?」
「はい、すみません、お待たせしました」
農夫はずっと待ってくれていた。
「変なヤツらだなぁ。なんなんだぁおめーら」
ますます怪訝(けげん)な目を向ける農夫だった。それもそのはずだ。まぁ、それはいいとして。
こほん、咳払いをひとつ、
「えっとぉ、ぼくら旅してるんですけど、ちょっと迷っちゃって。それで、この辺りに休めるところはないかなぁって」
か弱き旅人を装ってみた王子だ。
すると農夫は真面目な顔をして、
「確かにこの先にはオラの村がある。だけんどもオススメは出来ん。あそこは呪われちまったんだよ……」
「呪われた?」
「少し前からだ。村の近くに恐ろしい化物が棲み付きやがってな」
「ばけものが……?」
「そうだ。そいつのせいで村人たちは疲弊し、いまや村中が淀んだ空気に包まれておる。オラも今逃げて来たところだ」
「そうでしたか……」
「だから行かねぇほうがいいぞ。――それじゃ、おめーらも達者でな」言いつつ、農夫が走り去って行く。そして一度振り返り、
「いいな、忠告したかんなー!」
彼の姿が遠ざかり見えなくなった。
「なんと身勝手な。逃げ出すなどと無責任にもほどがある……!」
それまで黙っていた女騎士が吐き捨てた。
「しかし、恐ろしいバケモノとは一体……、王子、いえ、若さま、どうします?」
「もちろん、――行くさ」
つづく!
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。
第一回はコチラから↓
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/183827313689/view/1989548/