2024-07-04 22:05:10.0 2024-07-04 22:15:54.0テーマ:その他
106【ゆうはん。】「……ゴクリ」「……ん? おい、まさかお前」「どうしよう、お兄ちゃん。鬼ショt……」「おい、それ以上はヤメテおけッ!」【まおぼく】
第6章 その6
集落の奥に細道がある。
抜けると広場になっていて中央に土で盛られた高台があった。季節の折り目の祭事に使用される程度の場所であった。
祭壇をこしらえ駕籠(かご)を置き、周囲には果物などが供えられた。
深夜だ。
かがり火が焚かれ祭壇だけが闇に浮かんでいる。
ざざざ、ぞぞぞ……!
生温い風が木々を揺らした。
どこからともなく不気味な声が辺りに響く。
「ひひひ……いいニオイだ……そこにおるな……我に捧げられし御子よ……!」
声と共に大きな影が祭壇へと近づいてくる。
巨大な腕が駕籠の戸を開いた。中にはひとりの人物が座っている。
「ほう……! これはこれは……なんと美しいおなごじゃ……!」
花飾りで彩られた装束に全身を包み、恥じらうように顔を伏せている。
その姿に我を忘れ、しばし見とれていた巨影。
ややあって、
「気に入った……! そなたを我の花嫁に迎えようぞ……!」
毛むくじゃらの大きな手が触れる寸前、
「残念だったね」その人物――王子が叫んだ。「ぼくは男さ!」
駕籠から飛び出し影に向き合う花嫁衣装の王子。
目の前には巨大な鬼の姿が。それが影――化物の正体であった。
鬼が声を張り上げた。
「なんと! そなたは男児であったか! うぬぬぬ……!」
「そうさ。だからキミの花嫁にはなれないもんね!」
「……うん。まぁ、それはそれでアリか」
「へ……ッ?」
「苦しゅうない、そなたを我の花嫁として迎えよう。ささ、近う寄れ」
なんと!
バケモノは てまねきを している!
「うをおおおーい! キミ、そっちの趣味もあるんかーいッ?」
「いいじゃない、男のコだって、良いじゃない。そなた、かわうぃーじゃない。我、嫌いじゃないが?」
「嫌だよ! ぼくは! 全力でお断りしますぅッ!」
「ち……ッ!」
「舌打ちするな! 悔しがるなーッ!」
おうじの さけびが
こだまする!
*
村のはずれ、焚き火のそばにひとり、女騎士はいた。
そこへ村娘が夜食と毛布を運びにやって来た。
「あの、すみません」
「はぁ……、ふぅ……」
溜息をつく女騎士。村娘が声を掛けたことに気付かないでいる。
「王子ぃ……なんで私を置いていったのよぉ……ざびぢいよぉぉぉ……」
「あの~ぅ、大丈夫ですかっ?」
「はっ! ……う、うむ。問題ない。少し気が抜けていただけだ」
女騎士は我に返った。
「ごめんなさい。私なんかの、いえ、この村の為に」
先程、村のクジで生贄にされた村娘だ。申し訳なさそうにうつむいた。
「気にするな。私たちが勝手に決めたことだ」
「あのお連れの方は大丈夫でしょうか?」
村娘は女騎士の隣に腰かけた。
「心配ない。おうj……いや、若さまが負けることなど無い」
「そうですよね。すごく強かったですし。同じ年くらいなのに、本当すごいなぁ」
「君だって凄いさ。いくらクジで決まったとは言え、生贄になることを受け入れて村を救おうとしたではないか」
「私なんて何の取柄もないですから。せめて、みんなの為にと思って……」
「とにかく、今日はもう遅い。ここは私に任せて君は早く休むがいい」
毛布に身を包んだ女騎士。虚空に視線を向けた。星の無い空がどこまでも広がっている。
「いえ、私もここにいます。ちゃんとあの方が戻って来るまで、ここにいさせてください」
「ならばもっと近くに来るがいい。今夜は冷えるぞ」
「はい。ありがとうございます」
女騎士は自身の毛布に村娘を招き入れた――。
つづく!
※この物語はフィクションです。
交流酒場で「ゆうはん。」と検索すると、これまでのお話が振り返れます。
第一回はコチラから↓
https://hiroba.dqx.jp/sc/diary/183827313689/view/1989548/