あの神社には、一度足を踏み入れると”帰ってこれない道”がある。
山奥にひっそりと残る古い神社――
名すらわからない。
地図にも載っていない。
だが、そこに続く山道には、無数の赤い鳥居が立ち並んでいる。
夏休みのある日、私と友人の由美は、その神社を見に行った。
地元では「絶対に近づくな。近づいたら二度と生きては戻れない。」と
言われ恐れられていた場所だったが、私と由美は肝試し気分でそこへ向かった。

湿って重たい風、不気味な鳥の鳴き声、どこからともなく聞こえる無数の
風鈴音。霧が立ち込めた竹林の中にその入り口はあった。
「無数の赤い鳥居、ほんとにあったんだ…じゃあ、ここが…?」
由美がおどおどとつぶやく。
どうやら、由美も平気とは口で言いながらも内心は怖いようだ。
「怖いなら、帰る?」
私は、少し小ばかにするような口調で由美に聞いた。
「んなわけw」
そんな話をしながら無数に立ち並ぶ不気味な鳥居の
参道への歩みを進めていった。

どれくらい数えただろう――
鳥居を数えながら進むこと四半刻、
ふと横目に小さな祠が見えた。
気になって近づいて見ると、
祠の前に、藁で作られた人形がいくつも並べられていた。
「なんでこんなところに藁人形…?」
私はその一体を手に取った。
表面は濡れていて、赤いシミが点々とついていた。
胸に括られた紙には赤黒い文字でこう記されていた。
「○○ 由美」
由美の名前だった。
「ねえ、これって…由美の…?」
振り向いたとき、由美はいなくなっていた。
「由美…?冗談だよね…?」
私は恐怖のあまり、泣き出しそうになりながらも、
ぐっと堪え由美を探すことにした――

由美がいなくなった祠から歩みを進めてだいぶ時間が経ったころ、
参道の先に、奇妙な建物が見えた。
もうあたりはすっかり暗くなっていて、近くで建物を照らしている
石造りの灯籠がよりいっそう周囲の不気味さを際立たせていた。
崩れかけた社殿――その中に、一体の日本人形がぽつんと座っていた。
白い顔、黒髪、真紅の着物、
ただの飾り物にしては、妙に生々しかった。
私が目を逸らそうとした瞬間、
人形の目と合った。
視線が外れない――。
目が奥に引きずり込まれるような感覚。
瞬きもできない。
そのとき、人形が――にぃ、と口元だけを動かした。
私はその場に膝から崩れ落ちた。
動けない――
逃げられない――
逃げたい逃げたい逃げたい――
動け動け動けっ――
心の中で念じながらも足はおろか、身体がぴくりとも動かない。
恐怖で意識が飛びかけていたそのとき、
人形が目の前から忽然の消えた――
身体がすっと軽くなる。
動けるようになった私は力のない足でなんとか
その場に立ち上がった。
そのとき、後ろから声が聞こえた。
ビクッ――
「○○ちゃん…」
今にも消えそうな細々とした声だった。
由美の声だ――
「もう、脅かさないでよ!」
「こっちは由美を探して大変だったんだかんね!」
と言いながら後ろを振り返ると、
そこには誰もいなかった――
「え…? 由美…?」
何か足元に落ちている。
祠にあった藁人形が二体落ちていた。
一つは由美の名前が書かれた人形。
もうひとつにはこう記されていた。
――次は、あなたの番――

それ以降どうなったのかは定かではないが、
あの神社は今でもそこにあるようです。
本来、神社というのはその地域の神様が祀られてます。
その地域に住んでいる住人、または他の地域から来た観光客…
様々な人々から崇められ奉られていることでしょう。
そのおかげもあって、私たちは、目標を決め神様に「○○を達成します」と告げ、達成できたら感謝を伝えるような場所としてお参りに行くようなことも多いわけです。
――ですが一方で、皆から忘れられてしまった神社はどうでしょうか――
神社がどこにあるのかはここにはあえて書きません。
もしかしたらあなたの近所の、あの神社なのかも――。