ヘリで十数分程移動し、私達は異界への入り口のある区域にたどり着いた。周囲は作りかけの建物がいくつも立ち並び、それを完成させるべく何体ものゴーレムが工事を行なっている。
「ここは…街?まだ作りかけっぽいけど」
「ええ、今後他国の人々を住まわせる予定になっています。基盤はフィムが用意してくれたので、後は完成させるだけ、といった感じですね。」
異界への入り口がある場所に一般人を住まわせて大丈夫なのかという疑問はあったが、私がそれを口に出すことはなかった。メファが先に話し始めたからだ。
「さて、この建物の地下に件の異界へ繋がる扉があります。ある程度安全の保証はされていますが、それでも命の危険のある場所なのに変わりはありません。
…覚悟はできていますか?」
少し考え、私はそれに嘲笑で返すことにした。
彼女は不快そうに鼻を鳴らすと、先に建物へ入っていった。
「…ここが、異界」「お互い離れないよう気をつけて下さい、逸れたらかなり面倒なことになります」
扉の先は、真っ暗な下水道のような場所だった。自分達のいる通路のすぐ横には、悪臭の漂う白く濁った下水が流れていた。
事前にメファからその光景を聞かされていた私は支給された防護マスクを着用し、「暗視」の魔法を発動する。
「下水にはあまり近づかないようにして下さいね、でかいナメクジや何かしらの腕が引きずり込んでくることもあるので。」
「言われなくても。…で、今回の目的としてるものは何?」
「…この異界内では通信機器が機能しないのですが、ここに現れるゾンビは、我々の把握していない技術を用いた通信機器によって連絡を取り合います。
その通信機器を持ち帰り、解析することが今回の目的になります。」
了解、と返しながら、私達はそのゾンビを探すために移動を開始した。
道中、天井からナメクジの群れが落ちてきてメファに焼かれたり、黒光りするアイツが出て来てメファに焼かれたりもしたが、大きなハプニングも無いまま、目当てのゾンビを発見することが出来た。
「いるね…あの腰に付けてるトランシーバーが目的のやつ?」
「そうですね。あれで増援を呼ばれるのは勘弁したい所なので、気付かれないように接近しましょう。」
私達のいる通路の向かい側に背を向けて立つゾンビに向かい、通路の間に渡された狭い足場をゆっくりと移動する。メファも私も隠密に使える魔法も特殊技能も無いため、こうした原始的な方法で気配を殺す必要がある。
周囲の閉鎖的な雰囲気も相まって、かなり緊張感を感じていると、
「…ん?」
ふと、背後に気配を感じた。それはメファも同じだったようで、共に後ろを振り返る。
そこには、デロデロに溶けた肉塊から人の手足が大量に生えたような化け物がいた。突然の敵襲に一瞬呆気にとられている間に、肉塊は私の方に突撃してくる。
足場は人一人分の幅しかなく、しかも渡りきるまではまだ距離がある。大所帯になると気付かれるリスクが高まる、ということで死霊は召喚していない…とんでもなくまずい。
「ちょ、何か召喚を…」
間に合う訳がないだろうが、などと発言する暇すらなく、肉塊と私が激突した。
必然的に私はメファに激突し…しかしメファは細い足場だというのに、その体幹でもって耐えてみせた。 そして私にそんな運動能力なぞあるはずもなく…そのまま大きく体勢を崩し、下水に転落した。