蟷螂が一匹身じろぎもせずに胸を張っていた。
なにしろ焦点のない目であるからどこに気を張っているかわからない。
全力でこちらを威嚇しているようにも見えるが意外と気を休めているところかもしれない。
昨日は久しぶりの雨に着物を一枚増やしたが、今日は朝から陽が身を炙る。
無心で歩けば陽が真上に来る前に街へと着くはずであったが耐え切れずに林へと続くわき道へと足を向けた。
その林の入り口である。道端に一体の地蔵が佇みこれに背を向けて一匹の蟷螂が凛と立っていた。
今年は蝉の声が聞こえなくなるのも早かったからそろそろ産卵の時期なのかもしれない。
少し離れてちょうどよい木陰の岩場があったので腰を落としてなんとなくそれと向き合った。
一片の命がまるで小さな石像のようにぴくりともしない。
草木でさえその脈動を風に泳がせ目まぐるしく表情を変えているというのに。
竹筒に入れてきた井戸水を一口、胸の芯にゆっくりと染み込ませたときにようやくそれに気が付いた。
そこにはいつの間にかはかま姿の女性が一人佇んでいた。